「金龍ラーメン」が立体看板の龍のしっぽ撤去へ/不動産の時効取得とは?
2024/08/22   不動産法務, 訴訟対応, 民法・商法, 外食

はじめに


大阪市の繁華街ミナミにあるラーメン店「金龍ラーメン道頓堀店」の運営会社は2024年5月、ラーメン店の立体看板である龍のしっぽ部分がはみ出しているとして大阪高等裁判所から撤去を命じられました。
この判決に対し、会社は上告を検討していましたが、8月14日、「上告を断念し、しっぽを撤去する」旨発表しました。

 

龍のしっぽを撤去へ

金龍製麺株式会社が運営するラーメン店「金龍ラーメン道頓堀店」には龍の立体看板が設置されています。この龍のしっぽ部分が隣接地にはみ出ているとして、土地を所有する不動産会社が金龍ラーメン側に撤去を求める訴訟を提起していました。

立体看板は1992年ごろに設置されましたが、看板はラーメン店の正面の上部に、龍の顔や胴体がうねるように設置されていて、側面の壁からはしっぽ部分が突き出しています。しっぽ部分が突き出した壁の下にはひさしがあり、さらにその下には客席が並んでいます。またしっぽ側の隣接地は通路として使用されているといいます。

これに対し、隣接地を所有する不動産会社が、「建物を新築するにあたって龍のしっぽ部分とひさしが土地の使用を制限している」として撤去を求めました。

金龍ラーメン側は「しっぽ部分が飛び出している西側部分も時効取得している」と主張。一方、原告の不動産会社側は「あくまで空中の工作物であり係争部分を排他的に占有しているとは言えない」と主張していました。

一審判決で大阪地方裁判所は、しっぽ部分や外壁のひさしの撤去を命じ、店側が敗訴しました。また控訴審判決でも大阪高等裁判所は2024年5月29日に、一審判決を支持し、店側の控訴を棄却しています。

裁判所は判決の中で「ひさしと立体看板は土地の所有権を妨害していた」と判断。店側はひさしの下について「第三者の立入りを制限したり、排除したりするような壁や仕切りを設けることがなかったから、本件係争部分を排他的に支配しようとする意思がなく、被告は、本件係争部分を占有していたとはいえない」と指摘し、店側が主張していた“占有による時効取得”を認めませんでした。

一審・二審で敗訴したことを受けて、金龍ラーメン側は「龍の立体看板のしっぽを撤去する」と発表しました。一時、店側は上告を検討していましたが、裁判手続きの負担の大きさから、裁判継続は難しいと判断したということです。
しっぽは8月下旬にも撤去される見通しです。

【参考】大阪地裁が「龍のしっぽ」撤去命じる、時効取得と所有権の範囲(企業法務ナビ)

 

裁判の争点は“短期時効取得”


今回の裁判では、「不動産の時効取得」が争点の一つとなりました。
「不動産の時効取得」とは、他人の不動産を一定期間継続して占有する者に、その所有権を与える制度です。

この時効取得には、長期取得時効と短期取得時効の2つがあります。

■長期取得時効
20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有することにより、所有権を取得する(民法第162条1項)。

■短期取得時効
占有開始時に善意無過失で、10年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有することにより、所有権を取得する(同条第2項)。

いずれの場合も、時効取得が認められるためには(1)占有の開始と、(2)それを起点に10年ないし20年経過した時点で占有している事実を証明する必要があります。

占有開始を証明するものとしては、例えば建物の登記や建物図面などが挙げられます。
一方、「土地の占有の継続」を主張するためには、当該部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならないとされています(最高裁昭和46年3月30日判決)。

今回の金龍ラーメンのケースでは、立体看板のしっぽ部分が飛び出している西側部分(以下、「ひさし下土地」)の「土地の占有の継続」の有無が争いとなりました。

金龍ラーメン側は、ひさし下土地に座敷テーブルを設置し、24時間営業で客にラーメンを提供していた事実をもって、「土地の占有の継続」があったと主張しましたが、大阪高等裁判所は、

・立体看板とひさしは、店舗の主要構造部分とみることはできないこと
・ひさし下土地は、第三者が通路として通行していて、壁や仕切りなどを設置して立ち入りを制限していなかったこと

などの理由から、「店側がひさし下土地を排他的に支配していたと評価することは困難で、占有の継続は認められない」と結論づけました。

大阪高等裁判所2023年10月26日判決

 

コメント


不動産の時効取得は、所有権という強い権利を取得させる制度だけに、その要件である「継続的な占有」がなかなか認められない傾向があります。

過去の判例の数々を見ても、隣地との間に鉄条網を敷く、立札を立てる、土地の測量を行う、年に数回様子を見に来るだけでは占有とは認められないとするものもあります。

今回の金龍ラーメンのケースのように、不動産を時効取得したことを前提に事業を進めてしまった場合、後日、時効取得が否定され、原状回復等に相応の費用を要するおそれがあります。
時効取得の有無が争われる土地の事業利用については、特に慎重な判断が必要となります。

 

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