ヤマハ発動機が子会社を合併、「簡易吸収合併」について
2024/09/02   商事法務, 戦略法務, 会社法, メーカー

はじめに

 ヤマハ発動機は7月24日、同社の完全子会社であるヤマハモーターエレクトロニクスを合併する決定をしたことがわかりました。二輪車や船外機の電動化の加速を目指すとのことです。今回は簡易吸収合併について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ヤマハ発動機はこれまで機能モジュール単位での技術先鋭化や競争力強化を目指し、子会社としての独立採算による経営管理を推進してきたとされます。しかし技術や機能の分散による連携の難しさが課題であり、脱酸素に向けた市場環境変化や技術革新の迅速性が増し、高度かつ迅速な開発とモノ創りが求められることから、同社完全子会社であるヤマハモーターエレクトロニクスを吸収合併する決定に至ったとのことです。手続きの日程としては、7月24日に合併決議承認の取締役会決議、翌25日に合併契約締結、2025年1月1日を効力発生日とされ、簡易・略式合併であることから両会社での株主総会は省略されます。

 

吸収合併の手続き

 吸収合併とは、ある会社が他の会社を吸収することにより、消滅する会社の権利義務のすべてを包括的に承継するというM&Aの手法の1つです。合併は株式会社同士や株式会社と持分会社などほぼすべての種類の会社で行うことが可能ですが、精算中の会社や、特例有限会社を存続会社とする合併はできません。吸収合併の大まかな手続きの流れとしては、(1)合併契約の締結、(2)両当事会社での株主総会による承認、(3)債権者保護手続きと事前開示、(4)反対株主への通知・公告(5)効力発生と登記、(6)事後開示となります。まず両当事会社で合併契約を締結して取締役会決議による承認がなされます。株主総会では特別決議による承認が必要です。1ヶ月以上の期間を設けて債権者異議手続きをします。また反対株主は効力発生日の20日前までに株式買取請求ができます。最後に効力発生日から2週間以内に法務局で登記をすることとなります。

 

簡易合併とは

 吸収合併では、上でも触れたように原則として両当事会社で株主総会による承認が必要となります(会社法795条1項)。しかし一定の場合にこの株主総会による承認決議を省略できる場合があります。その1つが簡易合併です(796条2項)。要件としては、存続会社が消滅会社の株主に交付する対価が存続会社の純資産額の20%以下である場合となります。この対価とは、存続会社の株式や社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他金銭等となります。このような場合は会社や株主への影響が大きくないことから株主総会での承認決議を省略できることとなっております。ただし合併差損が生じる場合や、交付する対価が譲渡制限株式である場合、また一定数の株主が反対の意思を表明した場合は省略できないとされます。なお簡易合併で株主総会決議が省略できるのは存続会社側のみとなり、消滅会社は省略できません。

 

略式合併とは

 吸収合併における株主総会決議を省略できる場合として、簡易合併の他に略式合併というものが存在します。これは相手会社が自社の株式の90%以上を保有している場合に株主総会による承認決議を省略できるというものです(796条1項)。吸収合併の承認決議は特別決議を要しますが、相手方当事会社が議決権の90%を保有している場合は可決することが確定していることから、わざわざ開催する意味が無いということです。これは消滅会社、存続会社いずれにおいてもあり得ます。ただしこの略式合併も例外があり、消滅会社が公開会社で、存続会社が非公開会社であり、合併の対価が譲渡制限株式である場合は株主総会は省略できず、消滅会社において特殊決議による承認が必要となります(309条3項2号)。これは発行済の株式に譲渡制限を付ける場合と同様であることから手続きもそれに合わせられているということです。なお略式合併ができる場合は少数株主を保護するため差止請求も認められております(784条の2)。

 

コメント

 本件でヤマハ発動機や同社の完全子会社であるヤマハモーターエレクトロニクスを吸収合併するとされます。これによりグローバルなモノ創り体制の強化を目指すとされます。連結業績に与える影響は軽微とのことです。今回の合併は消滅会社であるヤマハモーターの株式の100%を存続会社のヤマハ発動機が保有していることから合併対価は存在せず簡易合併に当たりヤマハ発動機側での株主総会は省略できます。またヤマハモーター側も略式合併の要件を満たすことから株主総会の省略が可能で、両会社で開催されないこととなっております。以上のように完全子会社を吸収合併する場合は株主総会による承認決議を省略できます。完全子会社として独立性を保つ場合、また吸収して1つの会社として事業を継続する場合、それぞれでメリットやデメリットが存在します。これらを踏まえて自社の経営戦略を検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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