京王プラザホテル札幌、コロナ禍の渡航禁止のための有給休暇却下は違法 ―札幌高裁
2024/09/17 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
京王プラザホテル札幌の元従業員が有給休暇の申請をした際に、新型コロナウイルス感染拡大状況などを理由に認められなかったとして、同社に損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で13日、札幌高裁が賠償を命じる判決を出していたことがわかりました。今回は労基法の年次有給休暇について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、京王プラザホテル札幌の元従業員は2020年2月、ハワイでの娘の結婚式に出席するため、同年3月18日~25日の有給休暇を申請したところ、ホテル側はコロナ禍の状況などを踏まえ、渡航を禁止するため前日になって休暇を認めないとの判断をしたとされます。これにより結婚式に出席ができなくなり精神的苦痛を被ったとして元従業員はホテル側に330万円の損害賠償を求め札幌地裁に提訴しておりました。一審札幌地裁は新型コロナウイルス感染拡大という状況下で特段の事情を認め、年次有給休暇を認めなかった点に違法性はないとし、請求を棄却しました。
年次有給休暇とは
労基法39条1項によりますと、使用者は、雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し、前労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の有給休暇を与えなければならないとされております。この有給休暇は正社員だけでなく、パートやアルバイトの従業員にも、6ヶ月の継続勤務と8割以上の出勤率という要件を満たすことによって与える必要がでてきます。この場合は比例付与と言って、週所定労働日数や1年間の所定労働日数、勤務年数に比例して有給休暇が当たられることとなります。例えば週所定の労働日数が4日で年間所定労働日数が169日~216日、継続勤務年数が半年で7日間、1年半で8日間、3年半で10日となります。これは労働時間が週20時間未満のパートタイムでも同様で、週所定労働日数が2日で6ヶ月継続勤務し、8割以上の出勤率があれば、半年経過で3日間の有給を付与できます。
時季指定権と時季変更権
労基法39条5項では、使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないとしております。ただし請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることができるとされます。原則として有給休暇をどの時季の取るかは労働者が指定することとなります。これを時季指定権と言います。しかし労働者が指定した時季では事業の正常な運営を妨げる場合には日の変更を求めることができることとされております。これが時季変更権です。有給休暇に関してはこの時季変更権を巡ってしばしばトラブルに発展します。判例ではこの「事業の正常な運営を妨げる場合」について、会社が繁忙期であるというだけでは認めず、代替勤務日を確保するための合理的努力を要するとしております(最判昭和62年7月10日)。しかし繁忙期の有給取得希望者が重なり対応できなかった場合に認めた例も存在します(前橋地裁高崎支部平成11年3月11日)。
時季指定義務と計画的付与
現行の労基法では、年10日以上の有給が付与される労働者には、年5日の有給を会社側が指定して取得させる必要があるとされております(39条7項)。これを時季指定義務と言います。有給の取得が年5日に満たない場合に、その労働者の意見を聞いて取得してもらうということです。これとは別に計画的付与という制度も存在します。これは年間に取得できる有給のうち、その一部を労使協定と就業規則であらかじめ日を決めて、計画的に有給を取得していくというものです。具体的には付与日数のうち5日を除いた残りの日数が対象となっており、夏季や年末年始に計画的に付与することで大型連休とすることも可能です。5日間について計画的付与の対象となっていないのは、従業員の病気や個人的な都合によって有給を取得できるよう留保しておくためとされます。
コメント
本件で京王プラザホテル札幌の元従業員はハワイで行われる娘の結婚式に出席するため有給取得を申請したものの認められませんでした。一審札幌地裁は当時のコロナ禍の状況下で実際に従業員が感染して帰国後に症状が出た場合は、それが報道されホテル側にとって社会的評価の低下を招き、事業継続に影響しかねないとし時期変更権の行使は適法としました。一方で二審札幌高裁は時季変更権の行使が出発の前日であったことから、「遅きに失し、違法性があると言わざるを得ない」としてホテル側に33万円の賠償を命じました。以上のように有給取得は原則として従業員側に指定権があります。事業の正常な運営を妨げる場合は会社側に時季を変更する権利が認められております。これが認められる場合でも本件のように前日になって通知するなどといった場合は違法となることもありえます。労基法の制度を今一度見直し、社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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