第一生命HD 希望退職1,000人募集へ
2024/11/19 契約法務, 労務法務, 労働法全般, 金融・証券・保険
はじめに
第一生命ホールディングス株式会社は11月14日、約1,000人の希望退職者を募集すると発表しました。セカンドキャリア特別支援制度の一環で行われるということです。対象は一定条件を満たす50歳以上の社員で、該当者は約1万5,000人にのぼります。
他社の事例ではありますが、過去には希望退職をめぐり裁判になったケースもあり、慎重な制度運用が求められます。
50歳以上対象に希望退職募集
報道などによりますと、第一生命ホールディングスは
・50歳以上
・勤務期間15年以上の社員
という条件のもと、約1,000人の希望退職者を募集するということです。
この中には出向中の社員も含みますが、保険の販売を行う営業職員は対象外となっています。
募集期間は2025年1月20から1月31日まで。希望する社員は3月末日付で退職となります。
この制度を利用する社員には、退職金に加えて特別支援金(基本給の最大48か月分)が支払われるほか、再就職の支援が行われるということです。
仮に1,000人がこの制度で退職した場合、今年度決算では特別支援金の加算などにより、150億円の特別損失を計上する見通しだということです。一方で、人件費削減の効果は約90億円となる見込みです。
第一生命ホールディングスが1,000人規模の希望退職を募集するのは今回が初めてだといいますが、今回、同社がセカンドキャリア特別支援制度の実施に踏み切った背景には、新たに打ち立てた経営方針があります。
第一生命ホールディングスは、2030 年までの「“保険サービス業”への進化」や「資本効率の向上」を目的として、2024 年度から新たな中期経営計画をスタートさせました。
そこには、海外事業や保険事業以外の新規事業を拡大していくことが盛り込まれています。経営方針を変革する中で社員のスキル向上を図り、人材の多様化を目指したい狙いがあるということです。
「セカンドキャリア特別支援制度」実施のお知らせ(第一生命ホールディングス株式会社)
希望退職めぐり裁判事例も
第一生命ホールディングスの「セカンドキャリア特別支援制度」は、中高年社員の新しいキャリアを後押しする“早期退職優遇制度”や“希望退職者募集制度”などに類するものといえます。
こうした制度について法律上の定義はありませんが、一般的には新しい経営方針の打ち出しや、経営不振となった際に人員整理を行うために活用されます。希望退職制度などでは、社員に対し退職の働きかけを行い、社員との合意に基づいて労働契約を終了させる点が、整理解雇などと異なるところです。
会社によっては、希望退職の対象が全社員になることもありますが、退職希望者を募るため、通常の退職にはない支援金を加算するなどの優遇措置を行うケースも少なくありません。
一方で、こうした希望退職制度が社内で公表される前に退職を申し出た社員が、後に会社を訴えた事例があります。
○エーザイ事件(東京地裁令和元年9月5日 判決)
社員Aは他社への転職が決まり、エーザイ社を退職するため会社に退職届を提出しました。会社はこれを受理しましたが、その10日後、「希望退職制度」の募集を公表。内容としては、退職金のほかに支援金のようなものが特別に支給されるというものでした。社員Aは同制度の対象だったため、「退職届を撤回し、改めて制度を利用したい」意向を伝えたものの、会社は応じませんでした。なぜなら制度のルールとして、「すでに退職届を提出し会社が承認した場合には適用が除外される」旨定めていたためです。
社員Aは、「会社側が希望退職制度の導入を知りつつ退職届を受理し、撤回に応じなかったことは不法行為にあたる」と主張。エーザイ社に対し、自己都合退職したことによる退職金合計額との差額である約3300万円の損害賠償を求め、東京地方裁判所に提訴しました。
これに対し、東京地方裁判所は、
・会社が社員Aの退職届を受理した時点で希望退職者を募集することが決まっていなかったこと
・仮に決まっていたとしても、会社側は公表まで希望退職制度の実施に関する情報の秘密を保持する必要があったこと
などから、会社には、希望退職制度の実施に関し、社員Aに内容を告知する義務はなかったとしました。
さらに、労働契約の解約合意が成立し、希望退職制度が公表された後になって退職届の取り下げが認められた場合、制度の公平・適正な運用が妨げられることは明白であるため、会社が退職届の取り下げに応じる義務はなく、これに応じなかったことは不法行為を構成しないと結論づけました。
コメント
今回の第一生命ホールディングスに先立ち、10月1日にはリコーが国内1000人を対象に早期退職の募集を行っています。さらに、10月31日には富士通が間接部門の幹部社員を対象に早期退職の募集を行ったとされています。
組織再編による余剰人員の削減や人材の最適配置、生産性向上などを目的に行われることの多い希望退職制度。しかし、運用の仕方によっては、法的トラブルに巻き込まれるリスクもあります。
対象者の範囲や利用条件などの要件を具体的に固めることが重要になります。
【参考】
上場企業で年間1万人超のハイペース/早期退職者優遇制度、運用上の注意点(企業法務ナビ)
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