「腐ったミカン」と退職迫った追手門学院側が謝罪、職員3人と9200万円で和解
2024/12/02 労務法務, コンプライアンス, 訴訟対応, 労働法全般, 教育、学習支援
はじめに
大阪の学校法人追手門学院の外部講師から「腐ったミカンをおいておくわけにはいかない」などの発言を繰り返され退職に追い込まれたとして、学院の事務職員3人が2020年8月に学院などを提訴していた訴訟で、11月6日、学院側が約9200万円の解決金を支払うことなどを条件に和解が成立しました。
「戦力外」などと退職迫る
訴えを提起していたのは、40~50歳代の元職員3人です。
追手門学院は2016年8月22日~26日にかけて、原告3人を含む職員18人を対象に大阪市内のビルで、自律的キャリア形成に関する研修を実施しました。研修はコンサルタント会社、株式会社ブレインアカデミーから派遣された講師が担当しましたが、講師は受講した職員に対し、「2017年3月末での退職を受け入れるよう」連日にわたり求めたということです。
しかし3人には退職する意思がなかったため、雇用継続を希望しました。その際、講師は「あなたのような腐ったミカンは置いてはおけない」「虫唾が走る」「老兵として去ってほしい」「戦力外なんだよ」などと責め、退職を迫ったといいます。さらに、研修後の面談でも学院の理事長が3人に対し退職を求めたということです。この後、3人はうつ病を発症して休職。いずれも退職扱いとなりました。
2020年8月、3人は大阪地方裁判所に追手門学院の元理事長やブレインアカデミーを提訴しました。原告の主な請求内容は以下です。
・損害賠償 計約3,600万円(慰謝料500万円×3人分を含む)
・退職強要行為の差し止め
・(原告1名に関し)職員としての地位確認
※休職期間満了で解雇されたのは不当と主張
その後、学院側は、労働基準監督署が2023年1月までに3人の労災を認定したことを受け、3人が職員の地位にあることを認めましたが、損害賠償請求などについては引き続き審理が続いていました。
追手門学院と元職員の地位確認訴訟が終結/請求の認諾とは(企業法務ナビ)
こうした状況を経て、今年11月6日、学院側と職員3人の和解が成立しました。和解内容は以下のとおりです。
・学院側が3人に謝罪する
・再発防止を約束する
・3人に対してあわせて約9,200万円の解決金(未払い賃金を含む)を支払う
今回の和解を受け、追手門学院は、「和解条項の内容に従って、引き続き再発防止に努める」旨、声明を出しています。
パワーハラスメントについて
職場における「パワーハラスメント」とは、職場において行われる言動のうち、以下の①~③の要素を全て満たすものをいいます。
① 優越的な関係を背景とした言動
(職務上の地位が上位の者による言動)
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの
(言動などで労働者が身体的・精神的な苦痛を受け、就業環境が不快になり、仕事で能力を発揮しにくくなること)
もっとも、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。
パワハラに該当すると考えられる言動として、具体的には次のようなものが挙げられます。
・殴る、蹴るといった身体的な攻撃
・人格否定の言動をする精神的な攻撃
・一人の労働者に対して同僚らが集団で無視し、職場で孤立させる人間関係からの切り離し
・労働者に業務と関係ない雑用処理を行わせる、過大な要求
・管理職の労働者を退職させるため、簡単な業務を行わせる過小な要求
・労働者の性的指向や病歴、不妊治療などの個人情報を勝手に他の労働者に暴露する個の侵害
今回の追手門学院の事例で職員3人がかけられた言葉は、そのうちの「人格否定の言動をする精神的な攻撃」にあたっていた可能性が高いと考えられます。
職場における ハラスメント防止対策が強化されました!(厚生労働省)
コメント
“自律的キャリアの形成”を謳い文句に、40時間に及ぶ研修を通じて、社外講師から執拗に退職を迫らせる。研修受講者の心理的な負担は相当大きなものだったと推察されます。
「退職」というセンシティブな内容のコミュニケーションを行う際、任意にこれを勧める場合はともかく、
・大声を出す、机を叩くなどして威嚇する
・人格否定の発言をする
・従業員が退職を拒否した後も執拗に退職を勧める
・退職に応じなかったことをきっかけに不利益を課す(仕事を与えない、不当な配置転換など)
・断れば、解雇するなどと脅す
などの言動は、パワーハラスメントに該当する可能性を一気に高めます。
その場合、仮に従業員が退職したとしても、“実質解雇”とみなされ、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効とされてしまいます(労働契約法第16条)。
改正労働施策総合推進法により、職場におけるパワーハラスメント対策が企業の義務となっています(大企業は2020年4月1日から、中小企業は2022年4月1日から)。
パワハラの定義を今一度確認しつつ、特に、「退職」が絡む文脈で適切なコミュニケーション・手続きがとれているか精査してみてはいかがでしょうか。
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