大学教授らが公選法違反容疑で兵庫県知事とPR会社代表を告発/PR代行と法的規制
2024/12/09 契約法務, コンプライアンス, 広告法務
はじめに
兵庫県知事選挙で再選した斎藤元彦知事陣営のSNS運用に関し、PR会社代表が投稿した記事の内容が公職選挙法違反の疑いがあるなどとして、弁護士と大学教授が知事と会社代表に対する告発状を神戸地方検察庁などに郵送しました。
知事側は一貫して「法律違反はない」との認識を示しています。
再戦果たすも刑事告発
知事は、今年3月にパワハラなどの疑惑で内部告発されたのち、兵庫県議会から不信任を受け失職しました。しかし、その後の出直し選挙でSNSを駆使し、11月に見事再選を果たしています。選挙後は、世間は『テレビなどのオールドメディアがSNSに負けた』など、選挙期間中の知事側のSNS運用が功を奏したと話題になりました。
そのSNS運用などをめぐり、「公職選挙法違反の疑いがある」として、12月2日、弁護士と大学教授が、知事とPR会社の社長に対する告発状を神戸地方裁判所に送ったことがわかりました。
弁護士と大学教授は、告発状にて、「知事選挙に携わったPR会社がSNSなどインターネット上の選挙運動の企画・立案を担い、斎藤氏への投票を呼びかけるなど選挙運動者だった」と主張。そのPR会社に知事は報酬として71万5000円を支払っていることから、これは公職選挙法が禁じる、“選挙運動に対する報酬の支払い”にあたるとしています。
この主張に対して、知事側は、「PR会社に依頼した内容は、ポスター製作にとどまり、広報全般は依頼していない」とし、支払われた71万5000円の報酬は(公職選挙法が認める)ポスター製作に対するものであるとしました。
また、話題となったSNS運用については、「PR会社ではなく、社長個人がボランティアとして行ったもの」であり、それらの活動に対する報酬は支払っていない旨主張しています。
一方、今回告発を受けたPR会社の社長はウェブサイトの記事にて、知事陣営の選挙期間中のSNS運用に関して「全般を任された」旨を発信していましたが、現在は削除されています。
弁護士と教授は社長についても、選挙運動の報酬として金銭を受け取ったとして公職選挙法違反(被買収)容疑で告発しています。
PR代行と法的規制
今回、話題の中心となっているPR代行会社。PR代行会社とは、クライアントとなる企業や組織・団体に代わって、広報業務やPR業務を行う会社です。
その業務内容は、PR戦略の立案やメディアとの関係構築、パブリシティ(メディア掲載・露出等)の獲得、広告展開、プレスリリースの作成など多岐にわたります。
PR代行を事業として行ううえで、特に官公庁等からの許認可は必要ありませんが、PR代行業務を行う際には、留意しなければない法令が複数あります。
例えば、景品表示法では、ステルスマーケティングなどを行い、消費者の購買に影響することが禁止されています。また、よく知られているところでは、薬機法による広告規制があります。薬機法では、医薬品や化粧品などの名称、製造方法、効能・効果・性能等に関して、虚偽または誇大な広告を広めることを厳しく禁じています。
【代表的な規制法令】
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ここでいう“選挙運動”とは「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」を指すとされています。事務員、車上運動員(いわゆるウグイス嬢)、手話通訳者、要約筆記者を除き、原則、報酬の支払いは認められていません(公職選挙法第197条の2)。
そのため、PR代行会社が選挙運動に携わる場合には、原則、ボランティア以外は認められないことになります(公職選挙法が定めるポスター・ビラ等のデザインや製作など、“選挙運動”ではなく“単純な労務”と解されるものに対する報酬支払いは認められています)。
さらに、仮にボランティアとして選挙運動に携わる場合でも、公職選挙法の細かい規定を遵守する必要があります。公職選挙法では、公正な選挙を実現し、候補者が資金力にものを言わせて選挙結果を左右することを防ぐため、選挙運動ができる期間(選挙の公示日に立候補の届出をしてから選挙期日の前日まで)や選挙運動のやり方、使用できる文書図面、選挙カーの台数、ポスター・ビラ・ハガキの枚数、看板サイズ、電子メールの送信方法など、数々の制限を設けています。
例えば、投票日当日にSNSで投票を呼びかけるなどした場合、選挙運動期間外の選挙運動として違法となります。また、候補者に関する嘘の情報を投稿する、候補者などのホームページにデマを書き込むなどの行為も禁じられており、これらに違反した場合には刑事罰を科されるおそれがあります。
このように、PR代行を行ううえでは、規制法令に関する深い知識とそれらを遵守する高い意識が求められます。
コメント
今回のPR会社をめぐっては、過去に兵庫県と取引があったことから、公職選挙法が定める「特定寄附の禁止」に抵触しているのではとの疑いも持たれています。
「特定寄附の禁止」とは、国や地方自治体と請負その他特別の利益を伴う契約関係にある者が、当該選挙に関する寄附を行うことを禁止するものです(公職選挙法第199条)。
業者などが、自治体との取引が実現したお礼や今後の取引への期待を込めて候補者側に寄附を行い、取引の便宜が図られる事態を防止することなどが目的となっています。
これに対し、知事側の代理人弁護士は、
・PR会社が現在は兵庫県と契約関係にないこと
・PR会社の代表も兵庫県の委員を務めているものの、そちらは請負ではなく委任契約であること
などから、特定寄附の禁止には抵触していないと主張しています。
運動員買収に特定寄附。一連の疑惑に対し捜査は行われるのか、行われた場合、どのような事実が明らかにされるのか、目が離せません。
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