”敷引特約”の有効性 -不動産賃貸借に伴う金銭やりとりの一事例-
2011/07/13 不動産法務, 民法・商法, 消費者契約法, 住宅・不動産
”敷引特約”の有効性 -不動産賃貸借に伴う金銭やりとりの一事例-
最高裁は、7月12日にいわゆる”敷引特約”は特段の事情がなければ有効であるとする判決を下した。今回は第三小法廷であるが、3月には第一小法廷でも同旨の判決が下されている。
”敷引特約”とは?
不動産賃貸借においては賃料以外にも様々な名目で金銭がやり取りされ、敷金・権利金・更新料等名称・名目やその性質も様々であるが、敷引特約では保証金などとされているようである。
そして、敷引特約は名称としては敷金と紛らわしいが、その性質は大きく異なっており、保証金のうち一定額(いわゆる敷引金)を控除し,これを賃貸借契約終了時に賃貸人が取得するというものである(敷金とは、判例法として形成されている,賃貸借契約における賃料の担保及び同契約において賃借人が負担することのある損害賠償金支払債務を担保するための預託金としての性質を有するものをいう)。
消費者契約法10条
消費者契約法
第十条 民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
判決概要
本判決では1人の反対意見が付されているが、多数意見もともに10条前段に該当することは認めており、後段の「民法第一条第二項に規定する基本原則に反」するかいなかが争われた。基本原則とはいわゆる信義則のことである。第二審では賃貸人と賃借人間の情報格差が是正されていたかが必ずしも明らかでないこと、敷引金が保証金の60%・月額賃料の3.5月分にも達することを重視して信義則に反して無効と判断している。
しかし、最高裁は、1)不動産賃貸借においてやり取りされる金銭は多岐に渡るが、その条件が明確になっておれば賃借人においても契約条件を他と比較することは可能であり、2)その上で契約したのであれば経済合理性のある行為と判断でき、3)「敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り」信義則に反しないと判示し、本件の具体的な解決においても上記の額では「高額に過ぎるとはいい難」いとしている。
雑感
不動産賃貸借における金銭のやりとりの1事例についての判示である。そして、この分野は地域色が濃い分野でもあり、敷引特約は京都,兵庫,福岡では多数を占めるそうだが、東京ではあまり見られないらしい。賃貸借終了後にいくらの金銭が返還されるかは一大関心事と思われるだけに契約時には注意を要する。
【関連リンク】
・最高裁判所第三小法廷 平成23年07月12日判決(pdf)
・消費者契約法
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