乳児抱き上げ骨折 女に懲役4年6月
2012/02/01 訴訟対応, 刑事法, その他
1.事件の概要
栃木県足利市で、抱かせてもらった乳児の足の骨を折ったとして、計4件の傷害罪に問われている同市若草町、無職五月女(そうとめ)裕子被告(30)の判決公判が1日、宇都宮地裁足利支部であった。検察側の求刑は懲役7年であったのに対し、宮崎寧子裁判官は懲役4年6月の判決を言い渡した。
本件では五月女被告の責任能力の有無が争点となったが、同被告は弁護側の請求で約7カ月間にわたり精神鑑定を受け、完全な責任能力があったと認定された。
検察側は論告で「幸せそうな母子に嫉妬したという身勝手な動機」と指摘。「母親らは人間不信になり、他の乳幼児を持つ家庭に大きな衝撃を与えた」とした。一方で弁護側は「犯行当時は心神耗弱状態だった」と主張し、五月女被告に幼い娘がいることなどから、保護観察付き執行猶予の判決を求めていた。
宮崎裁判官は、争点となった事件当時の被告の責任能力について、五月女被告がうらやましいと感じる家庭の子供のみに危害を加えていたことなどから「是非善悪の判断が著しく欠けているとはいえず、完全責任能力を有していた」と指摘した上、争点となった事件当時の被告の精神状態について「是非善悪の判断能力が著しく欠けていたとは言えない」と述べ、弁護側の主張を退けた。
2.雑感
判決によると、五月女被告は2010年4月中旬~5月下旬、足利市内の子ども用品店などで、4人の母親に乳児を「抱かせてほしい」と話しかけ、抱いた際に足を強くひねるなどして骨を折り、4人にいずれも重傷を負わせたという。
検察側は、五月女被告の動機について「子どもをたくさん産むのが夢だったが、自身は離婚しそれが難しくなった中、幸福そうな親子を見てうらやましくなった」など、強い嫉妬心にあったと指摘している。この点について、宮崎裁判官も「嫉妬心を、抵抗も被害申告もできない乳児に向けており卑劣だ」としているように、まさに身勝手極まりない犯行といえ、被告人の心情をくむことは難しい。
また、事件の被害者となった乳児自身の身体的・精神的打撃はもちろん、母親が受けたであろう精神的衝撃も察するにあまりある。公判では、「(五月女被告を)殺してやりたい」「極刑に処して欲しい」とする被害者の母親たちの怨嗟の声が検察により代弁されたが、母親たちは今でも、幼い我が子を守れなかった自分を責め続けているという。
一方で、報道等によると、当初、容疑を否認していた五月女被告は、「自分の子供が同じことをされたらどう思うか」と弁護人に問われ、そこから一転、容疑を認め始めたそうだ。“子を思う親心”があるのであれば、なぜこのような凶行に走ってしまったのかと、なんともやるせない思いだ。
一般的に、「赤ちゃんを抱っこさせてほしい」という申し出は、大部分が好意によるものであろう。しかし、幼い子供を持つ家庭では、今後、他人からのこうした申し出を受けるべきか判断に迷うこととなり、本件が与えた社会的影響は決して小さくないと考える。
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