笹子トンネル事故で遺族が提訴
2013/05/16 訴訟対応, 民事訴訟法, その他
事案の概要
山梨県大月市の中央自動車道・笹子(ささご)トンネルで昨年12月、天井板が崩落し9人が死亡した事故で、ワゴン車で通行中に亡くなった男女5人の遺族が15日、トンネルを管理していた中日本高速道路(名古屋市)と点検業務を請け負っていた子会社「中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京」(東京都)を相手取り、総額数億円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。
訴えたのは、東京都内のシェアハウスに住んでいた、いずれも会社員――石川友梨さん(当時28歳)、小林洋平さん(同27歳)、松本玲さん(同28歳)、上田達さん(同27歳)、森重之さん(同27歳)――の両親10人。石川さんらは山梨県を観光した帰りに、事故に巻き込まれた。
訴状で原告側は、中日本高速側は天井板の設備の老朽化や、米国での同種事故の発生を把握しており、崩落事故を予測できたのに、昨年9月の点検を子会社に依頼する際、トンネル最上部を含めた打音検査や、近接目視による点検の指示を怠った過失があると主張している。また、中日本高速には工作物の管理者(占有者)に課せられた「工作物責任」があるとした。なお国の責任を併せて指摘しながらも、訴訟が長びく懸念などから国賠訴訟は断念したという。
解説
中日本高速道路株式会社はその安全点検や補強・改修工事を怠り、事故を回避する注意義務を怠った過失がある。また中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京についても点検の不備により事故を回避する注意義務を怠った過失が認められる。これらの過失に基づき原告側は民法709条の不法行為責任を追及することができる。
また高速道路の占有者である中日本高速には、土地の工作物の設置又は保存の瑕疵によって他人に損害を与えたとして、民法717条の工作物責任(損害賠償)が課せられうる。
コメント
事故につき中日本高速側に過失があるのは否定できない。それゆえ訴訟も結果より事故の原因究明、再発防止策の観点から注目されることになるであろう。
原発事故もそうであるが、こういった珍しい事故は想定外で片づけられてしまいがちである。しかしその道のプロから見れば十分想定できた事象であることがほとんどなのではないであろうか。人が亡くなってからでないと、事故防止に時間とお金をかけられないのが、世の常のように思われるのは残念である。
法務も含め、何か重大事件が起こる前に対応することの大切さを確認させられる事件といえる。
参照条文
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
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