職場の他の従業員らが嫌がっていることを理由に人選した整理解雇は有効か
2013/12/11 労務法務, 労働法全般, その他
東京高判平成25年4月25日の事案の概要
海運業者であるY社は、平成22年6月15日、経営悪化を理由に同社従業員であるXを整理解雇した。これに対しXは、人員解雇の必要性がないことや、XがY社に対して時間外手当の支払いを求めて別訴を提起していたことを理由とした人選であり合理性がない等主張して雇用契約上の権利を有する地位の確認等を求めた。
原審である東京地裁は、整理解雇の要件を欠くとして本件解雇を無効とした。判決理由において、Y社は結局のところXによる別訴の提起を非難しているとして人選の合理性を否定した。これに対しY社が控訴した。
控訴審である東京高裁は、①解雇の必要性、②解雇を回避するための努力義務の履行、③人選の合理性を総合考慮した上で、原審とは逆に、本件解雇を有効とした。
このうち、③については以下のように合理性があると認定した。まず、Xが別訴を提起したことは正当な権利の行使であり、再建途上のY社の存続と雇用の継続を最優先して権利行使を抑制していた他の従業員がXに対しどのような感情を抱いていたかは別の問題であるとした。その上で、XがY社に対しワークシェアリングに反対する意向を示す等していたことに対し、他の従業員らはXが自己中心的で協調性に欠けるとして嫌悪感を抱き、現に多くの従業員がXの職場復帰を拒絶していると認定。そして、労働契約が労使間の信頼関係に基礎を置く以上、他の従業員との関係で業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねないXを被解雇者に選定したことには経営上の観点から合理性があるとした。
コメント
整理解雇の要件(正確には上記に加えて④手続きの妥当性もあげられる)のうち、上記①および②は一定の制約を受ける。しかし、誰かを解雇する必要性があるため使用者の一定の裁量に委ねざるをえないことから、③の人選基準については比較的緩やかに設定されているのが現状である。
本判決では、Xと他の従業員との関係性が業務の円滑な遂行に支障を生じさせることを理由としているが、他方で経営陣がXに対して強い嫌悪感を抱き、それが人選に影響を与えたことを否定できないとも判示している。ということは、実際にはXが別訴提起等の権利行使をしたことを問題視して人選がされたとも捉えることができ、原審の判断が妥当のように思える。また権利主張を理由とする整理解雇とすると公序に反するといえ、労基法104条2項の趣旨に照らし問題があるように思える。
本判決をきっかけに、整理解雇における人選の合理性につきさらに議論を深めていくべきである。
関連サイト
関連コンテンツ
新着情報
- ニュース
- 自社株の無償交付を従業員に拡大へ、会社法改正の動き2025.1.14
- NEW
- 企業が保有する自社株をより柔軟に活用し、企業の成長投資を後押しするため経済産業省が月内にも会...
- 弁護士
- 髙瀬 政徳弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号
- 解説動画
- 斎藤 誠(三井住友信託銀行株式会社 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌))
- 斉藤 航(株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー)
- 【オンライン】電子提供制度下の株主総会振返りとバーチャル株主総会の挑戦 ~インタラクティブなバーチャル株主総会とは~
- 終了
- 視聴時間1時間8分
- 解説動画
- 大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間
- セミナー
- 石黒 浩 氏(大阪大学 基礎工学研究科 システム創成専攻 教授 (栄誉教授))
- 安野 たかひろ 氏(AIエンジニア・起業家・SF作家)
- 稲葉 譲 氏(稲葉総合法律事務所 代表パートナー)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 上野 元 氏(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー)
- 三浦 亮太 氏(三浦法律事務所 法人パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 山口 憲和 氏(三菱電機株式会社 上席執行役員 法務・リスクマネジメント統括部長)
- 塚本 洋樹 氏(株式会社クボタ 法務部長)
- 【12/6まで配信中】MNTSQ Meeting 2024 新時代の法務力 ~社会変化とこれからの事業貢献とは~
- 終了
- 2024/12/06
- 23:59~23:59
- 業務効率化
- Araxis Merge 資料請求ページ
- まとめ
- 中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~2024.4.3
- 「生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるか」。この問題に関し...
- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード