打ち切り補償解雇 労災受給者も対象 最高裁初
2015/06/15 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
業務上の病気・怪我で3年以上療養を続ける労働者を、補償金を支払って解雇する「打ち切り補償」制度を巡り、労災認定を受け療養中に解雇された専修大学の元職員の男性が解雇を不当として地位確認を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は6月8日、「国から労災保険の支給を受けている労働者でも、雇用主は打ち切り補償を支払えば解雇できる」との判断を初めて示した。これは、長期療養中の労働者の解雇を、従来よりも広く認める判断である。
「打ち切り補償」制度
労働基準法は、業務上の病気や怪我で療養している労働者の解雇を原則として禁止している。しかし、一方で、雇用主の費用負担により療養を開始してから3年を経過しても快復しない場合、平均賃金の1200日分の打ち切り補償を支払って解雇できると規定している。これは、雇用主の負担を軽減する趣旨である。
今回のケース
今回のケースでは、大学側が療養費を負担せず、国が労災保険を支給していた。このような場合にも、打ち切り補償による解雇が可能か否かにつき争点となった。
男性は、2003年頃から腕から全身に痛みが生じる頸肩腕症候群と診断され、2007年に労災認定を受け休職していた。大学側は、2011年に約1630万円の打ち切り補償を支払って解雇した。
第一審・第二審は、打ち切り補償の適用は、雇用主が療養費用を負担している場合に限られるとして、本件解雇は無効である判断していた。第二審において、大学側は「労災保険制度は使用者の災害補償責任を肩代わりしており、打ち切り補償を支払った解雇も可能」と主張していた。これに対し、男性側は「労災給付では使用者の補償責任は果たされておらず、解雇を認めれば新たな大量解雇の道が開かれる」と反論していた
最高裁第二小法廷は、打ち切り補償の目的を「雇用主の負担を軽減するもの」としたうえで、「労災保険が給付されている場合、労働基準法が使用者の義務とする災害補償は、国による肩代わりという形で実質的に行われているといえる。雇用主が療養費用を負担するケースと扱いを異にするべきではない」と指摘した。そして、4人の裁判官の全員一致により、「療養開始後3年が過ぎても治らない場合、打ち切り補償の支払いで解雇できる」と判断した。
コメント
今回の最高裁判決は、雇用者は労災保険への加入が義務付けられ、保険料を全額負担しているという実態や、業務上の疾病に対する雇用者の災害補償義務は国の労災保険給付により肩代わりされるという実質を踏まえたものであり、結果として、雇用主側の選択肢を広げるものと言える。
しかし、多くの場合、業務上の病気や怪我の療養費は、雇用主の負担ではなく労災保険で賄われているという。このため、今回の最高裁判断は、どんな雇用主も療養中の労働者につき一定額の金を払いさえすれば解雇できるということになりかねないとして批判されている。
もっとも、復職の可能性があるにも拘らず、合理的な理由もなくなされた解雇は、打ち切り補償によるものであっても、雇用主の職権乱用として無効となる余地がある。また、長期的に療養をしている労働者は、働きながら療養を続ける場合や、自発的に退職する場合も多い。そのため、今回の最高裁判決は直ちに療養中の労働者を対象とする大量解雇を誘発させるようなものではなく、労働者の保護に欠けるものとは言い切れないという見方もある。
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