長時間労働の原因と法務部員がとるべき対策
2015/12/07 労務法務, 労働法全般, その他
日本の労働時間はアメリカに次いで先進国の中では2位。しかし労働生産性は先進国の中でワースト。こうしたデータ上、働けば働くほど成果が落ちていく負のスパイラルを止める事はできないのか。今回はその原因、企業が被るリスクと法務担当者がとるべき対策などを紹介したいと思います。
1 考えられる主な原因
①職場環境
日本企業では成果や能力よりも残業時間が多いことで評価されるという空気や、残業を評価する精神論が蔓延していることが理由の一つとして考えられます。実際、内閣府が2014年に実施した「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」では、残業時間が長い人ほど自らの残業を上司がポジティブに評価していると答えています。
②終身雇用制度
終身雇用システムでは、不況期に余剰労働力の整理を行いにくい環境にあります。そのため人手不足に対して新規採用ではなく正社員の長時間労働で乗り切ることが多々あります。終身雇用を名目とした正社員の長時間労働の要求に対して、労働者側が断わりにくい土壌があるのではないかと指摘されています。
2 企業が被るリスク
①労働基準監督署による措置
労働基準監督所は労働基準法を越えた違法な長時間労働に対して企業に罰則を科したり、企業名を公表する措置がとります。また企業は付随的に同措置をとられたことに対する社会的信用の低下、新規採用難などの付随的リスクが考えられます。
②民事訴訟
労働者の過労死等(脳・心臓疾患、精神障害)が長時間労働が原因と認定された場合、多額の賠償金を支払わなければなりません。また民事訴訟が係属していることに基づく社会的信用の低下などのリスクも伴います。
3 企業が講ずべき対策
①経営トップ主導の意識改革
労働時間よりも労働生産性・成果で仕事を評価する明確なメッセージを経営トップが発信し、全社的に取り組んでいく姿勢を打ち出すことが大事です。
伊藤忠商事は2014年から早朝勤務を促すことで、労働時間を減らす取り組みを行っているます。中小企業やベンチャー企業でも定時になるとトップ自らが消灯していくなどの取組みも行われています。
②時間外労働の制度的削減
「ノー残業デー」、「ノー残業ウィーク」など、効率的な働き方を促す制度の導入が考えられます。キャノンは2011年からいわゆるサマータイム(明るい時間が長い夏の間は、朝早くから働き始め、夕方には家族などと過ごせるようにする制度)を導入しています。
また就業規則で定時の時間になるとPCの強制シャットダウンをする会社も増えています。
③年休取得の奨励
休暇取得計画(月1日以上)の設定、年休の計画的付与制度(年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数について労使協定を結べば計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度)の導入が効果的です。また年休暇取得状況を管理職の人事評価項目に盛り込むことも考えられます。
4 法務部員がとるべき対策
法務部員としては長時間労働が労働基準法に違反していないかチェックする必要があります。労働基準法32条は1日8時間・1週間の労働時間を休憩時間を除く週40時間と定めています。40時間を超える労働を従業員に行わせるためには労働基準法36条(いわゆる36協定)の定める
①労働組合又は労働者の代表と使用者で書面による協定を締結
②①を行政官庁に届け出
③労働基準法第 36 条第3項で定められた時間外労働の限度に関する基準に適合していること
④ 特別条項付き協定(③限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に特別条項付き協定を結べば、1 年の半分を超えない範囲で限度時間を超える時間を延長時間とすることができる制度)を結んでいる場合も、統計的に健康への影響が明確に現れるとされる週50時間を超えないか
をチェックする必要があります。
5 小活
効率的な労働時間の設定とその遂行は労働者の生活の充実にもつながり、それがまた企業の業績にもフィードバックされる好ましい循環が生まれます。長時間労働の是正により労働者1人ひとりの労働力が最大限に発揮されれば、労働者および企業のポテンシャルを見出す機会になるかもしれません。
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