社労士ブログ事件に見る懲戒処分と取消訴訟
2016/03/10 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 士業事務所
はじめに
「社員をうつ病に罹患させる方法」などをブログに掲載し、業務停止3ヶ月の懲戒処分を受けていた愛知県の社労士の男性が、国に対し処分の取消を求める訴えを起こしていました。今回は行政庁による懲戒処分と取消訴訟について見ていきたいと思います。
懲戒処分
社会保険労務士法(以下「社労士法」といいます。)25条によりますと、懲戒処分は①戒告②一年以内の業務停止③失格処分の三種類が規定されております。そして25条の2で故意に不実の申請書を作成したり、不正に保険料受給の指示・相談等を行った場合には業務停止又は失格処分。25条の3で不実の添付書面を作成したり、社労士たるにふさわしくない重大な非行があった場合にも上記懲戒処分ができると定められています。25条の2はその要件と処分内容が比較的わかりやすいかと思います。しかし25条の3はその要件が社労士たるにふさわしくない重大な非行という抽象的な要件となっており、また処分内容も①②③のいずれからも選択できるようになっております。これはどのような場合にどのような処分を下せるかについて、行政庁に判断の余地、すなわち裁量が認められていると考えることができます。
取消訴訟
行政事件訴訟法3条2項によりますと、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為に対しては取消を求める訴えを起こすことができます。本件の社労士に対する懲戒処分も行政庁の処分に当たります。問題はどのような場合に処分の取消が認められるかです。基本的に処分が根拠法令に反して違法である場合に取消が認められますが、本件のように行政庁に裁量が認められるものについては原則行政庁の判断が尊重されます。それでもなお裁量権の逸脱・濫用があると言える場合に限り違法として取り消されることになります(30条)。重大な事実誤認、法の意図しない違法な目的・動機による処分、平等原則違反、比例原則違反といった場合が該当すると言われています。
コメント
本件で愛知県の男性社労士の主張によりますと、厚生労働大臣が行った3ヶ月の業務停止処分は他の事例に比べて重すぎる、ブログも誰かをうつ病にさせる目的はなく悪質な行為とは言えないとして取消をもとめています。つまり「社員をうつ病に罹患させる方法」のブログ掲載が社労士たるにふさわしくない重大な非行に当たるのか、当たるとして3ヶ月の業務停止処分が平等原則・比例原則に反しないかが今回の争点となっております。本件男性社労士は「すご腕社労士の首切りブログ」と題する自身のブログにQ&A方式で社員をうつ病にし退職に追い込む方法を掲載しておりました。そこには詳細に社員に罰を与えるための就業規則の規定方法や、自分の非を強調させるような反省文の書かせ方、合法的なパワハラの与え方等を掲載しておりました。社労士法1条では社労士は労務関係の円滑な実施と労働者の福祉の向上に資することを目的とするとあります。このような目的から見ても、男性社労士のブログ掲載は社労士たるにふさわしくない重大な非行に該当しないと言うことは難しいのではないか。また3ヶ月の業務停止処分が不平等または過剰とは言えないのではないかと思います。モンスター社員がいたとしても、法の理念に則った指導や対処方法を考えることが重要と言えるでしょう。
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