将来のIPOの足かせに?投資契約書作成における注意点
2016/06/07 契約法務, 民法・商法, その他
投資契約とは
投資契約とは、投資家と投資先企業との間で締結される、投資の内容、条件等を定める契約です。投資契約は、一般に口頭によってすることもできますが、後のトラブルを避けるため契約書が作成されることが多いです。また、2当事者間の契約ですが、後に述べるようにその後の経営判断を制約する条項が設けられることもあります。そのため、将来IPOを目指すベンチャー企業などに限らず、投資契約をする際には、投資契約書の条項を丁寧に検討して作成する必要があります。
今回は、投資を受ける企業の側からみて注意すべき条項について指摘したいと思います。
以下では、投資契約書に記載すべき事項の一例を紹介します。
投資契約書の基本形
投資契約書については基本的に以下の条項を記載します。
①本株式の発行及び買取り
②払込手続
③発行会社による事実の表明及び保証
④投資家による事実の表明及び保証
⑤払込みの前提条件
⑥発行会社の特約
⑦本株式の譲渡
⑧投資家の約束
⑨契約の終了
⑩印紙税その他の公訴公課の負担
⑪補償
⑫費用
⑬権利の譲渡及び義務の引受
⑭通知、準拠法、管轄裁判所、その他
注意すべき条項
その中でも、注意すべき条項は以下の通りです。
③発行会社による事実の表明及び保証
ここでは、発行会社が、投資家に対して、投資判断の重要な前提となる事実を表明して真実であることを保証する旨が定められます。注意すべき点は、本当に保証できる事柄であるかという点です。具体的には、経営等に重要な悪影響を及ぼす訴訟が現在提起されていないこと、及びそのおそれもないことが定められることが多いです。しかし、これを超えて、将来訴訟が提起されないことまで保証するように読める文言とならないか注意すべきです。将来訴訟が提起されないことは、保証できる事柄ではないからです。
⑥発行会社の特約 その1
ここでは、発行会社に、取締役の解任や業務提携の解消など何らかのアクションがあった場合に投資家に関係する事項を通知すべき義務を課す旨が定められます。注意すべき点は、業務に支障のでるような通知事項が定められていないか、通知を超えて投資家の承諾まで求めていないかという点です。具体的には、投資家に何らかの経営上の判断について拒否権を与えるような条項が定められることがあり得ます。そこで、投資家の拒否権行使により、機動的な経営判断を阻害されないか条項を丁寧に吟味する必要があります。
⑥発行会社の特約 その2
さらに、ここで最恵待遇条項が定められること多いです。最恵待遇条項とは、将来の投資契約に今回の契約よりも有利な事項が定められたときには、今回の契約にもその事項が適用されるというものです。注意すべき点は、今回の投資契約が将来の投資契約に影響を与える点です。
具体的には、将来の投資契約でも最恵待遇条項が定められることが想定されるため、今回の投資契約で投資家に有利な条項が将来の投資契約でも設けられます。そこで、今回の投資契約の条項を慎重に吟味する必要があります。
⑬権利の譲渡及び義務の引受
ここでは、発行会社による事実表明に虚偽があったなど要件を満たす場合に、投資家が発行会社や経営者に株式の買い取りを請求できる旨が定められます。注意すべき点は、買い取りを請求できる要件が緩すぎないか、買い取り価格が高すぎないかという点です。具体的には、当初の投資家の支払い額を買い取り価格とすることは、要件を満たすに至った事情によっては発行会社や経営者に酷であることがあり得ます。そこで、発行会社や経営者に帰責性がない場合などには、買い取り価格を時価とする旨の条項を入れることなどを検討すべきです。
⑭投資家の約束
ここでは、投資家に、知りえた発行会社の秘密について漏えい、公表、利用しない義務を課す旨が定められます。注意すべき点は、秘密の範囲について明確に定義できているかという点です。具体的には、自社の秘密で重大な影響を与える秘密が、契約書の文言にあたるかどうかなど、丁寧に検討すべきです。
コメント
どのような契約にも妥当することですが、両者が一方的に有利になるような契約は後のトラブルの原因となりえます。したがって、発行会社の法務担当者は、上記条項に注意しながら、投資家と発行会社の両者によりメリットとなる方向を向いて交渉をすることが結局は良い結果が得られる手段であることにも注意して、交渉に臨むべきと考えます。
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