”くるみん認定”の基準、見直しへ
2017/02/10 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
昨年秋、大手広告代理店が社員に違法な長時間労働をさせていたことが発覚しました。発覚後、同社は従来より企業イメージの向上に用いられていた、厚生労働省による「子育て支援など一定の基準を満たした企業や法人の認定(”くるみん認定”)」の辞退を申し出ました。また、この問題を受けた同省は、来年度からの”くるみん認定”の認定基準の見直しを発表しました。
そこで、今回は1.そもそも”くるみん認定”とは何か、2.今回の件で認定基準はどのように見直されるのか、という点について見ていきたいと思います。
1.”くるみん認定”とは何か
次世代育成支援対策推進法によると、301人以上の労働者を雇用する企業や法人などの雇用主は、日本の社会や経済に深刻な問題である少子化に対処する「一般事業主行動計画」を策定した上で届出をしなければならなくなりました(雇用者が300人以下の企業などは努力義務)。そして、計画の届出をした後で申請をし、厚労省令で定められた基準を満たした企業には”くるみん認定”がなされることとなっています。
この”くるみん認定”は商品・役務・一般事業主の公告・役務の取引に用いる書類又は通信などに付することができ、社員の子育て環境を整えている企業として企業イメージの向上に役立てることができます。また、事業所内保育施設や授乳コーナーなどの「次世代育成支援に資する一定の資産」について割増償却を行うことができ、税制優遇措置(くるみん税制)を受けることができます。
さらに、通常認定である”くるみん認定”の他に、特例認定である”プラチナくるみん認定”があります。これは”くるみん認定”を受けた企業のうち、より高い水準の取組を行った企業が一定の要件を満たした場合に送られる称号です。この認定を得ることにより、さらに世間に対して良い企業イメージを周知させることができます。
2.今回の件で認定基準はどのように見直されるのか
現在、”くるみん認定”を受けるためには、以下の9つの基準を満たす必要があります。
① 雇用環境の整備について、行動計画策定指針に照らし適切な一般事業主行動計画を策定したこと。
② 行動計画の計画期間が、2年以上5年以下であること。
③ 策定した一般事業主行動計画を実施し、それに定めた目標を達成したこと。
④ 平成21年4月1日以降に新たに策定・変更した一般事業主行動計画について、公表及び従業員への周知を適切に行っていること。
⑤ 計画期間内に、男性の育児休業等取得者が1人以上いること。
⑥ 計画期間内の女性従業員の育児休業取得率が70%以上であること。
⑦ 3歳から小学校に入学するまでの子を持つ従業員を対象とする「育児休業の制度または勤務時間の短縮等の措置に準ずる措置」を講じていること。
⑧ 次の(1)から(3)までのいずれかを実施していること。
(1)所定外労働の削減のための措置
(2)年次有給休暇の取得の促進のための措置
(3)その他働き方の見直しに資する多様な労働条件の整備のための措置
⑨ 法及び法に基づく命令その他関係法令に違反する重大な事実がないこと。
厚生労働省は平成29年度より、上記に加えて、
⑩ 全ての従業員が1年間の月平均で残業時間が60時間未満であること。
⑪ 男性の育休取得率が10%程度であること。
という2つの基準を追加することを発表しました。冒頭の事件との関係では⑩が重要です。すなわち、従来より”くるみん認定”を受けていた企業であっても、残業時間を削減しなければ認定を見直されるという可能性が出てきました。また「残業時間が80時間未満」という基準があった”プラチナくるみん認定”においても「60時間未満」に見直されることになりました(他の基準については大部分が”くるみん認定”と重複)。そのため、これから認定を受ける予定の企業はもちろんのこと、たとえ認定を受けていた企業であっても社内の就業規則や残業状況を見直す必要が出てくる可能性があります。
おわりに-企業イメージと残業時間-
次世代育成支援対策推進法は現代の少子化社会を解決すべく、子育てのしやすい環境を整備することをその目的としています(同法1条参照)。したがって、認定基準の見直しによる残業時間の削減については、優良企業の条件ではなく飽くまでも「子育てのための時間を確保する」という観点から行われるものということになります。ところが、上記の通り、今回の基準の見直しが違法な長時間労働の発覚を契機とするものであることや、従来より”くるみん認定”が企業イメージ向上のためのアピールという側面も持つ以上、残業時間が少ない=優良企業という図式は今後さらに世間に広まるものと考えられます。労働関連の法律も含め、仕事と時間の関係については国全体で再考すべき時期に来ているのかもしれません。
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