イオン関連会社に仮眠分の支払命令、「労働時間」とは
2017/05/19 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
警備会社「イオンディライトセキュリティ」(大阪市)の男性従業員が宿直の仮眠も労働時間に当たるとして未払い残業代の支払を求めていた訴訟で千葉地裁は17日、原告の主張を認め未払い分等約180万円の支払を命じました。今回はどのような場合に賃金支払義務が生じるのか、労働時間について見ていきます。
事件の概要
判決文等によりますと、原告の男性(52)は2011年に同社に入社し、都内や千葉市内のスーパーで警備を行ってきました。千葉市内のスーパーで働いていた2013年1月から同年8月までは24時間勤務で4時間の仮眠時間と30分の休憩時間がありました。同社では仮眠時間は労働時間から除外するとして賃金は支払ってきませんでした。また仮眠時間中も警備体制の継続を求め、外出も認められず、制服のまま仮眠し異常事態に即応できる耐性を維持していたとのことです。男性は仮眠時間も労働時間に該当するとし、また支払請求後の別の部署への異動命令も不当な配置転換であるとして未払賃金と慰謝料含め約700万円の支払を求め千葉地裁に提訴していました。
労働時間とは
使用者は被用者に対し、労働時間に応じた賃金を支払う義務を負います。では「労働時間」とはどのようなものを言うのでしょうか。この点については労働基準法に明確な定義規定は置かれておりませんが、一般的には「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされております。実際に労働に従事している時間だけでなく何らかの形で指揮命令下に置かれていると評価できる時間も労働時間とみなされるということです。例えば定時前後の更衣や清掃、店頭での客を待っている時間、休憩時間中の電話番なども労働時間に該当すると言えます。それでは警備員等の仮眠時間は労働時間に当たるのでしょうか。
判例の考え方
この点につき最高裁は「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」とし、「仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」として仮眠時間も労働時間に該当すると判断しました。また「実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい」場合でなければ「労働からの解放が保障」されているとは言えないとしました(最判平成14年2月28日)。
コメント
以上のように「労働時間」に該当し賃金の支払い義務が発生するかは「労働からの解放が保障」されているかを客観的に判断することになります。類似のケースで仮眠中は電話や警報への対応を他の従業員とローテーションを組んで交代で対応していた場合は実質的に「実作業への従事」の可能性が極めて低いことから労働時間該当性が否定されました。本件では同社の警備員は仮眠中は制服も脱がずに異常事態に即応できる状態を強いられ、また他の警備員とローテーションを組んでいたという事実もなかったことから千葉地裁は仮眠時間や休憩時間も「労働から解放」されていたとは言えないとし労働時間に当たると判断しました。このように労働時間に当たるかは従業員との労働契約ではなく「指揮命令下に置かれているか」「労働からの解放が保障」されているかを実情から客観的に判断されます。仮眠時間だけでなく社員旅行や慰安旅行といった場合でも指揮命令に基づく強制と言えないかについて留意することが重要と言えるでしょう。
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