正社員のはずが契約社員扱いで雇い止め、労働条件について
2017/09/27 労務法務, 労働法全般
はじめに
正社員として採用通知を受けたが契約社員扱いで解雇されたとして京都市の男性(39)が12日、断熱材などを扱う「ティエムファクトリ」(京都市)に対し正社員としての地位の確認と未払賃金など815万円の支払いを求め京都地裁に提訴していました。正社員として募集し契約社員として雇用できるのか、正社員を契約社員とすることができるのか。今回は労働条件について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は昨年11月からティエムファクトリに「エアロゾル」と呼ばれる物質の研究職として働いておりました。同社は京都大学発のベンチャー企業で断熱材などの研究開発を行っているとのことです。男性に送付されていた採用通知書には「正社員」「(契約期間)定めなし」と記載されていたところ、入社時に担当者から「国の助成金を得るために形式的に必要」などと言われ、有期契約書に署名押印を求められ署名したとされております。男性は今年5月に上司の嫌がらせの是正を会社代表者や労働局に相談したところ会社側から雇い止めを通告されたとのことです。男性は「働いている時は上司から正社員採用だと聞かされていた。解雇通告され初めて契約社員扱いと知った」としています。
労働条件の変更
まず正社員として雇用した従業員を契約社員に変更することができるのでしょうか。無期の正社員から有期の契約社員への変更は労働契約の内容の変更に当たることから労働者と使用者の合意により変更することができます(労働契約法8条)。それに対し会社側から一方的に変更する場合としては人事権に基づく場合と懲戒処分による場合が考えられます。会社側には経営上の裁量判断の範囲で人事権が認められております。しかし裁判例では「社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たる」場合には違法無効となります(東京地裁平成9年11月18日)。また労働契約の内容に反する人事権の行使も認められないことから人事権に基づいて契約社員に変更することは不可能と言えます。懲戒処分による場合も同様に判例は「使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当として是認し得ない場合には懲戒権の濫用」として無効となるとしています(最二小半判昭和58年9月16日)。そして無期から有期雇用への変更についても労働契約内容を超える変更であるとして無効とした裁判例があり認められにくいと言えます(高松地判平成元年5月25日)。
正社員として募集後契約社員として雇用
それでは雇用形態を正社員として募集しておきながら、採用時に有期の契約社員として雇用することは可能でしょうか。これについても被用者側が合意していれば可能と言えます。この点について裁判例では「求人票記載の労働条件は当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容となる」とし、また労働契約書や労働条件通知書への署名押印についても「原告が自由な意思に基づいて」同意していない場合には無効としました(京都地裁平成29年3月30日)。つまり求人票で正社員として募集し、それに応募してきた以上原則として正社員であることが契約内容として成立することになります。そして採用時に変更する場合も労働者の自由な意思による合意がなければ変更は無効ということになります。
コメント
本件で原告側の主張するように正社員として募集し採用通知書にも正社員と記載がなされていたのであれば、それが雇用契約の内容として成立するものと言えます。そして入社時に有期契約の雇用契約書に署名押印をしていますが、「国の助成金を得るために形式的に必要」などと言われ署名押印をしたのであればそれは「自由な意思に基づいて」同意したものとは言えないことになり雇用契約内容の変更は無効ということになると考えられます。以上のように正社員と非正規の契約社員では雇用形態に大きな差異があり、雇用契約の範囲内の変更ということはできません。それ故に人事権の行使や懲戒権の行使により会社側から一方的に変更することは原則的に認められません。また正社員として募集した以上は相手側が自由な意思で合意しない限り、契約社員とすることも認められないと言えます。たとえば形式的なもので実際は正社員であるからとか、これに署名しないと解雇するといった方法で署名押印させても裁判所等で無効と判断される可能性はかなり高いと言えます。従業員の採用の際には正社員か契約社員か、雇用形態の扱いには細心の注意が必要と言えるでしょう。
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