除染作業員不正紹介で逮捕、職安法による規制について
2017/09/29 労務法務, 労働者派遣法
はじめに
東京電力福島第一原発事故に伴う除染事業の作業員を不正に紹介していた容疑で警視庁は27日、東京都葛飾区の山口組系暴力団組長、丸田栄伸容疑者(48)ら3人逮捕していたことがわかりました。職業安定法や労働基準法に違反していた疑いがあるとのことです。今回は職安法や労基法による規制について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、丸田容疑者は他の容疑者らと共謀し2015年に厚生労働大臣の許可を得ずに福島県富岡町の除染工事の二次下請け業者に男性作業員2人を紹介し、手数料約16万円を受け取ったとされております。また同年2月から翌2016年3月にかけて、この作業員2名が得た報酬のうち約92万円を受け取っていたとのことです。警視庁によりますと、丸田容疑者は2015年から2016年に少なくとも作業員10人を斡旋し、約1千万円を稼いだと見られ、作業員は除染作業経験のある容疑者の一人が紹介したり、インターネットで募集していたとされております。
職業安定法による規制
職業紹介事業はハローワークだけでなく民間業者も行うことができます。ただし民間業者が行う場合には届出や許可を受ける必要があります。まず有料職業紹介事業の場合は厚生労働大臣の許可が必要となります(30条1項)。無料職業紹介事業の場合は学校等が行う場合は届出で足りますが、それ以外の場合はやはり厚生労働大臣の許可が必要です(33条1項、33条の2)。過去5年以内に入管法や暴力行為処罰法、暴力団不当行為防止法などに違反し処罰された者や成年被後見人、被保佐人、復権していない破産者などは欠格事由に該当し許可を受けることができません(32条)。無許可で行った場合は罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金となっております(64条1号、5号)。
労働基準法による規制
労働基準法6条によりますと「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」とし、いわゆる中間搾取を禁止しております。ここに言う「利益」とは手数料や報奨金、金銭以外の財物等いかなる名称を問わず、また有形無形を問わないとされております(厚生省昭和23年3月2日通達)。そして「他人の就業に介入」とは判例によりますと、労働関係の当事者間に「第三者が介在」して「労働関係の開始、存続等について媒介又は斡旋をなす等」「何らかの因果関係を有する関与をなす」こととされております(最決昭和31年3月29日)。
労働者派遣の場合
それでは労働者派遣はこの中間搾取禁止規定に抵触しないのでしょうか。労働者派遣の場合は派遣元と労働者の間に労働契約があり、派遣元と派遣先との間には労働者派遣契約が存在します。そして労働者と派遣先の間には指揮命令関係が存在し、この3者の関係が全体として一つの労働関係を成すものと解されております。したがって派遣事業者は「第三者」には当たらず「他人の就業に介入」することにはならないとされております。なお仮に派遣事業者が許可を得ていないなど、法の手続きを経ていない違法な派遣事業であったとしても、この3者の関係性が崩れるわけではなく中間搾取に当たるわけではないとされます(厚労省平成20年7月1日通達)。
コメント
本件で丸田容疑者らは厚労大臣の許可を得ずに除染作業員を紹介していたことから、無許可の有料職業紹介事業を行っていたことになり職業安定法に抵触することになります。そして作業員の報酬から92万円を取得していた点につては、紹介した作業員と丸田容疑者らの間に労働契約関係が無く、また紹介先事業者との間にも契約関係や指揮命令関係が無いのであれば一体としての労働関係が形成されておらず、丸田容疑者らは「第三者」に当たり、違法な中間搾取に該当することになると考えられます。以上のようにハローワークや学校法人等以外が労働者の紹介や斡旋を行う場合には必ず厚労大臣の許可を要することになります。また派遣業は労働者と直接労働契約があり、自ら雇用する労働者を派遣しているという関係から例外として中間搾取に当たらないとされております。人材紹介業などを行う際にはこれら法や通達の扱いを正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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