日産自動車に団交命令、「不当労働行為」について
2018/02/28 労務法務, 労働法全般
はじめに
神奈川県労働委員会は27日、日産自動車が派遣社員の雇い止めを巡って労働組合と団体交渉に応じなかったのは不当労働行為に当たるとし、団体交渉に応じるよう命じました。派遣切り事案で団交命令が出るのは異例のこととされます。今回は不当労働行為について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、日産自動車が派遣社員2人を解雇したこと、期間従業員1人を解雇したこと、また期間従業員2人の雇い止めに関して労働組合が団体交渉を提起したところ日産自動車はそれに応じなかったとして神奈川県労働委員会に救済申立を行っていたとされます。日産側は解雇した派遣社員に関して、日産に雇用に関する決定権は無いとし団体交渉の対象とならないとしていました。また期間従業員に関しても訴訟の判決によって雇用関係が否定されており団体交渉の対象とならないと反論していました。
労働組合とは
労働組合法2条によりますと、「労働組合」とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体または連合団体を言うとしています。日本の労働組合は、地域、産業、業種別に組織される欧米のものと違い企業ごとに組織されることがほとんどです。その上で各企業の労組が産業別に連合体を組織していると言われます。そして労組には憲法上、団結権、団体交渉権、団体行動権が認められております(憲法28条)。
労働組合法上の規制
憲法28条を受けて労働組合法では労組の代表者に使用者と団体交渉を行う権利を認めています(6条)。また正当な労働争議行為によって使用者側に損害が生じても、労組やその組合員に対して賠償請求ができないとされます(8条)。そして7条ではこれら労組が行う活動を担保するために使用者が行ってはならない行為が不当労働行為として列挙されております。以下具体的に見ていきます。
不当労働行為
(1)不利益取扱い
①労働者が労働組合の組合員であること、②労働組合に加入したこと、③労働組合を結成しようとしたこと、④労働組合の正当な行為をしたこと、⑤不当労働行為の救済を労働委員会に申し立てたことなどを理由として解雇やその他不利益な取扱いをすることが禁止されます(7条1号、4号)。雇用の際に労組に加入せず、また労組から脱退することを条件とすることも禁止されます。
(2)団体交渉拒否
使用者が正当な理由なく労働者の代表者との団体交渉を拒否することが禁止されます(同2号)。労組からの団体交渉申し入れに対して拒否したり、無視や放置することが該当します。また形式的には交渉に応じていても、労組側の意見を聞き入れるつもりが無いといった不誠実な態度で応じることは、実質的に交渉拒否に該当するとされております。
(3)支配介入
使用者が労組の結成や運営を支配しまたは介入すること、また労組の運営のための経費の支払いにつき援助を与えることをいわゆる支配介入と呼び、禁止されます(同3号)。これは労組の団結力の弱体化を図る行為に当たるからです。具体的には労組結成に対し非難したり、組合員を辞めるよう勧めたり、組合員を解雇、配転、出向させることが挙げられます。上記不利益取扱いに該当しなくても組合活動の弱体化に結びつく場合には支配介入に該当することになります。
コメント
本件で神奈川県労働委員会は、日産が解雇した2人の派遣社員について、日産が部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に支配、决定しており「使用者」に該当するとしました。また期間従業員に関しても、交渉申入れの時点では裁判所での審理中で判決が確定しておらず、当時交渉に応じなかった理由にはならないとして不誠実な対応であり団体交渉拒否に該当するとし、団体交渉に応じることと、誓約文の交付を日産に命じました。労働委員会の命令に不服がある場合は、各当事者は15日以内に中央労働委員会に再審査申立ができます。また裁判所に取消を求める訴えも提起できます。救済命令が裁判所の確定判決で支持された場合には、それに違反すると1年以下の禁錮、100万円以下の罰金またはこれらの併科となります(28条)。労働委員会に不当労働行為が認められた場合は会社に対し、謝罪命令や誓約文提出などが命じられることがあり、企業イメージは低下します。どのような行為が違法となるかを正確に把握し慎重に対応することが重要と言えるでしょう。
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