大阪地裁「ホストの一気飲みは業務」、労災要件について
2019/06/20 労務法務, 労働法全般
はじめに
大阪ミナミのホストクラブで2012年にホストの男性が一気飲みをして死亡したのは業務が原因であるとして遺族が労災認定を求めていた訴訟で先月29日、大阪地裁は労災であることを認めました。サービス業での飲酒に関する司法判断は初とのことです。今回は労災要件を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2012年4月ごろから大阪ミナミのホストクラブで働いていたホストの男性(当時21歳)は同年8月1日の早朝に先輩ホストに強要され焼酎やテキーラを一気飲みしたとのことです。その後酔いつぶれて泡を吹いているところを他の従業員が発見し病院に救急搬送されたものの急性アルコール中毒で死亡したとされます。男性の遺族は翌2013年6月、大阪中央労基署に労災申請をしたところ不支給とされ、労災認定を求め大阪地裁に提訴しておりました。
労災とは
労働者が労務に従事したことによって発生した負傷や疾病、死亡を労災と言います。工場や工事現場などでの作業中の負傷などが典型例といえます。労災と認められた場合には治療費などの療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、死亡した場合の遺族保障給付などが支給されます。それ以外にも葬祭料や介護保障給付なども支給される場合があります。
事業者の義務
事業者は労働者を1人でも雇用している場合は労災保険に加入する義務が生じます(労災保険法6条、雇用保険法5条1項)。加入を怠っていた場合、その期間中に労災給付がなされると、保険料はさかのぼって徴収されることとなり、故意に加入を怠っていたと判断された場合には給付額の全額が徴収されることとなります。また場合によっては給付額の40%を追徴されることもあります。また実際に労災が生じた場合は労基署への請求書の事業主証明欄に労災証明することが義務付けられます。
労災要件
(1)業務遂行性
労災と認定されるための要件としてはまず業務遂行性があります。業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配管理下にある状態と言われております。たとえば就業場所で就業時間中に労務に従事している場合が典型ですが、その準備や後始末、就業前の待機中、用便や事業場内での休憩中、通勤中も該当します。また事業主の命令外であっても業務に伴う必要行為であれば合理的な範囲で認められます。
(2)業務起因性
次に業務起因性が必要です。業務起因性とは業務と災害との間に因果関係があることを言います。厳密には業務と発症原因、発症原因と災害との間にそれぞれ因果関係が必要で、その因果関係も医学的に相当と認められるものである必要があると言われております。
コメント
本件で大阪地裁は先輩ホストから強要され、飲酒を拒絶することが極めて困難な状況であったとし、飲酒は売上を伸ばすための行為で急性アルコール中毒はホスト業務に伴う危険が現実化したと判断したとされます。これはサービス業での接客としての飲酒行為も業務の一環として業務遂行性が認められ、それによるアルコール中毒も業務起因性が認められたものと考えられます。以上のように労災には2つの要件があります。労災が生じた場合事業主は事業主証明欄に押印することとなりますが、これは労災であることの証明ではありません。これが無くとも労災請求はできますが、事業主から見て労災であることに疑いがある場合にはその旨を説明し理由書を添付させることとなります。労災制度を正確に把握し、災害が生じた際には要件を満たしているか慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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