養鶏場従業員が提訴、労基法の適用除外について
2019/07/26 労務法務, 労働法全般
はじめに
養鶏会社「JAうすきたまごファーム」(福岡市)の男性従業員(50)が農業従事者に残業代が支払われないのは不当だとして未払い残業代約970万円などを求め福岡地裁に提訴していたことがわかりました。同時に付加金約717万円の支払いも求めているとのことです。今回は労基法の適用除外規定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は2012年4月に入社し同社が運営する養鶏場で勤務しておりました。主にコンピューターを使った鶏卵の生産数や重量などのデータ管理に携わっていたとされます。労基法の適用除外規定により男性には入社以来、深夜の割増賃金を除き残業代は支払われていなかったとのことです。男性は業務のほとんどがコンピューターで管理されており天候に左右されないことから労基法の趣旨は当てはまらず残業代不払いは不当であるとして未払い分および付加金の支払いを求め提訴しました。
労基法による規制
労働基準法によりますと、労働者の労働時間は原則として1日8時間、週に40時間とされ(32条)、それを超える残業分や深夜労働分には割増賃金を支払う必要があります(37条)。また労働時間が6時間を超える場合は最低45分、労働時間が8時間を超える場合には最低1時間の休憩を与え(34条)、毎週少なくとも1日の休日を与える必要があります(35条)。休日に労働をさせた場合にもやはり割増賃金が必要です。
労基法の適用除外
しかしこれらの規定のうち、深夜労働の割増賃金の規定以外は一定の場合に適用除外となります(41条)。適用除外となる対象は管理監督者(2号前段)、機密事務取扱者(2号後段)、行政官庁の許可を受けた監視・断続的労働従事者(3号)、そして農業・水産業従事者(1号)です。管理監督者はいわゆる「名ばかり管理職」問題で以前にも取り上げた経営に参画する幹部のことです。機密事務取扱者とは秘書などの管理監督者と一体として扱うことができる者を言います。監視・断続的労働従事者とは守衛や用務員、マンション管理人などの比較的緊張の少ない労働者を言います。
農水産業従事者
農水産業従事者とは土地の耕作や開墾、植物の栽培、動物の飼育、畜産、水産動植物の採捕、養殖などに従事する者を言うとされております。これらの業務は天候などに大きく左右され、通常の労働者のような勤怠管理がなじまないことから労働時間や休憩、休日の規定が適用除外となっております。悪天候などの自然条件によって急遽労働を要したり、長時間の労働が必要となることが多いといった性質があるからです。なお林業に関しては基本的に天候にあまり左右されないことから適用除外となる農水産業従事者に含まれません。
コメント
本件で原告側は、男性の職場は機械化が進んでおり労基法の規定は現代の勤務実態に合っていないとしています。コンピューター管理された屋内での養鶏業では天候などに影響されることも少ないと言えることから労基法の趣旨は当てはまらないということです。現行労働基準法は1947年(昭和22年)に施行されており当時と現代とではやはり労働環境に大きな変化があるものと思われます。それらを踏まえた判断がなされるのかが注目されます。なおこれら労基法の適用除外に関しては就業規則で異なる規定を置くこともできるといわれております。つまり農林業従事者に残業代等を支払う旨をあえて規定することもできるということです(千葉地裁平成27年2月27日)。労基法適用除外の対象業務を行っている場合には、法の趣旨が本当に当てはまっているのかを今一度勤務実態から見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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