マツキヨとココカラが経営統合、株式移転について
2020/02/13 商事法務, 戦略法務, M&A, 会社法
はじめに
ドラッグストア大手マツモトキヨシは先月31日、ココカラファインと2021年10月に経営統合する方針である旨発表しました。株式移転により新会社を設立して両社が新会社の子会社となる予定です。前回は株式交換について取り上げましたが、今回は株式移転について見ていきます。
事案の概要
日経新聞電子版によりますと、マツモトキヨシとココカラファインは昨年8月から経営統合に向けて協議を重ね、1月31日の取締役会で株式移転の方式により両社株式を新会社に移転してグループ化する旨の基本合意を行ったとされます。新設会社の代表にはマツモトキヨシ創業家の松本清雄社長が就任する方針で株式移転比率等は今後詰めていくとのことです。これにより売上高は両社合算で1兆90億円、店舗数は3000店を超える見通しとなります。
株式移転とは
株式移転とは1社または複数社の株式を全て新設する会社に移転し、新設会社を完全親会社とする組織再編行為の一つです。前回取り上げた株式交換は既存の会社に株式を全て取得させ、対価としてその会社の株式等を交付するというものでした。株式移転はまだ存在しない新設会社を完全親会社として複数の会社をまとめる企業グループの形成を目的として利用されます。なおこの制度は株式会社しか利用することができず、持分会社や特例有限会社は完全子会社、完全親会社のどちらにもなることができません。
株式移転の手続き
株式移転の手続きは次のような手順を踏みます。①まず株式移転計画を策定し(会社法773条1項)、②取締役会により承認し、臨時株主総会の招集決定を行います。③株式移転計画等の事前備え置き、④株主総会特別決議による承認(804条、309条2項12号)を経て、⑤株式移転による設立登記をすることにより完了します(925条)。株券や新株予約権証券を発行している場合は会社に提出するよう効力発生日の1ヶ月前までに公告し個別に通知する必要があります(219条1項7号)。株式移転の日にこれらの証券は無効となるからです(219条3項)。
債権者異議手続きと承認決議について
株式移転では株式交換と同様に債権者異議手続きは原則として不要となります。完全親会社となる会社はいまだ存在しておらず、また完全子会社となる会社でも株主が変わるだけで債権者に影響が無いからです。そして株主総会での承認決議に関して株式移転では略式・簡易手続きが利用できません。株式移転では親会社となる会社がまだ存在していないことから特別支配株主にあたる会社が存在せず、また対価が低廉で株主に影響が少ないという場面も存在しないからです。
コメント
本件で両社は1月31日に取締役会で基本合意をしました。今後事前開示と株主総会による承認決議、新設会社の設立登記へと手続きを進めていくことが予想されます。株式移転などの新設型の組織再編では新設会社は必ず株式を発行することとなり、対価は株式となります。そのため他のM&Aと違い買収資金が不要です。また承認決議も特別決議でよく3分の2の賛成で100%子会社化できるというメリットがあります。株式交換と違い複数の会社を一つの親会社のもとでグループ化することが容易な手続きと言えます。吸収合併のように完全に一つの会社となってしまうのではなく、別法人として存続しつつグループ化することから、煩雑な経営統合を必要とせず共同事業化することが可能です。自社の現状に合った組織再編手法を適切に選択していくことが重要と言えるでしょう。
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