建設会社社長らを書類送検、労災かくしについて
2020/07/14 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
建設現場で労災が発生したにもかかわらずその報告をしなかったとして、名護市の建設会社「屋嘉屋」の社長ら3人が書類送検されていたことがわかりました。実際に報告されたのは事故から3ヶ月後であったとのことです。今回は労災かくしについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2019年11月29日、今帰仁村古宇利のホテル建設現場で60代の男性作業員が丸のこ盤で左手の人差し指を切断するという事故が発生したとされます。男性は同年12月末まで入院しており屋嘉屋は当初労災の報告をせずに治療費を工面するつもりであったところ、費用が工面できなくなり労基署に相談し発覚したとのことです。名護労基署は同社社長ら3人を労働安全衛生法違反の容疑で那覇地検に書類送検しました。
労災と保険加入義務
労働災害(労災)とは、労働者の業務中または通勤中に発生した災害をいいます。さらに労災は大きく分けて業務災害と通勤災害に分けられます。業務災害は業務に内在する危険性が現実化したものと言えます。通勤災害は労働者の住居と就業場所との間の往復中に発生した災害を言います。このような労災から労働者やその家族を保護するために、事業者は労災保険に加入することが義務付けられております。正社員、パート、アルバイトなど労働者の雇用形態に関わらず、労働者を1人でも雇用している事業場には加入義務が発生します。なお労働者5人未満の個人経営農林水産事業の場合は除外されております。
労災報告義務
労働安全衛生法100条および施行規則97条によりますと、事業者は労働者が労災等により死傷、休業等したときは所轄の労基署に報告書を提出する義務があります。これを「労働者私傷病報告」といいます。これは労災保険申請とは別のもので、違反した場合には50万円以下の罰金となっております(労働安全衛生法120条)。この労働者私傷病報告を行わないことを一般に労災かくしと呼ばれております。
労災かくしの具体例
労災かくしにも様々なケースがあり、労災の発生状況を偽って届ける、労災を下請業者の労災として届ける、そもそも届け出自体しないといったものが挙げられます。発生状況を偽る例としては、高所作業中の落下事故を階段から転落したとしたり、加工機械による負傷を刃物使用中の負傷としたり、敷地内での運送車両による追突事故を単なる交通事故として届けるといった例が挙げられます。労働安全衛生法上の安全対策をとっていなかったといった事情を隠蔽する目的で行われることもあります。またそもそも届け出自体をしない場合は会社が治療費等を全額負担したり、労働者の健康保険を使わせて治療させるといった場合が多いと言われております。いずれも報告義務に違反する違法行為となります。
コメント
本件で建設現場で働いていた屋嘉屋の男性作業員は丸のこ盤によって左手人差し指を切断しております。しかし同社は当初治療費等を全額負担して報告をしない方針であったとされます。これは上記のように典型的な労災かくしに該当するものと言えます。以上のように事業場で労災が発生した場合は労災保険法による申請手続きの他に労働安全衛生法上の報告義務も発生します。多くの企業では前者については認識しているものの、後者の報告義務については認識しておらず、労災保険申請のみが行われている場合が多いと言われております。しかし故意に隠蔽しようとした場合には多くの場合で書類送検まで行くとされ、厚労省も労災かくしに対しては厳正に対処していく方針としております。労災が発生した場合に適切に報告しているか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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