ベテラン俳優が労災申請、労災保険法上の「労働者」について
2020/10/08 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
撮影現場での事故で骨折したベテラン俳優恩田恵美子さん(83)が労災申請していることが先月26日わかりました。労働基準監督署は労働者に該当しないとして退けていたとのことです。今回は労働関係法令の適用対象となる「労働者」該当性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、恩田さんは2017年、テレビドラマの撮影現場で左脚を骨折する重傷を負ったとされます。恩田さんは長年所属のプロダクション会社から仕事を請け負う形で活動してきたことから労働基準監督署は個人事業主に該当するとして、これまで2度労災申請を退けてきたとのことです。恩田さんは働き方の実態は労働者と変わらないとして現在労働保険審査会に再審査請求をしているとされます。
労働法と労働者性
労働基準法では、「職業の種類を問わず、事業または事業所…に使用される者で、賃金を支払われる者」を労働者としております(9条)。労働契約法では、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者を」労働者と定義します(2条1項)。また労働組合法では労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」としています(3条)。なお労災保険法には労働者の定義規定は置かれておりませんが労基法9条の労働者と同義と考えられております。このように各種労働法令では「労働者」を定義しており、それに該当しなければこれらの法令が適用されないこととなります。以下労働者性の判断基準を具体的に見ていきます。
労働者性の基準
労働関係法令では上記のようにそれぞれ「労働者」の定義を規定しておりますが、基本的には使用従属性が認められるかが判断基準となるとされております。使用従属性は大きく分けて、①指揮監督下の労働、②報酬の労務対償性に分けられます。そしてその判断にあたっては、仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由、業務内容および遂行方法に対する指揮命令の有無、勤務場所・時間についての指定・管理の有無、労務提供の代替性、事業者性、専属性の程度、公租公課の負担などの諸要素を総合的に考慮するとされております。つまり会社の監督下で仕事をし、対価として給与を受けている者を労働者と言うということです。
芸能人の労働者性
それでは芸能人は「労働者」に該当するのでしょうか。芸能人(タレント)は一般的に所属事務所と雇用契約ではなく個人事業主としてマネジメントの業務委託契約を締結していると言われております。そのため原則的に労働者に該当せず労働関係法令が適用されないとされます。しかし近年芸能人も実質的に労働者と変わらず、労働法によって保護すべき場合も多いと言われます。そこで厚労省の通達では、①契約形態が雇用契約ではないこと、②当人の提供する演技、歌唱等が他人によって代替できず、当人の個性が重要な要素となっている、③報酬が稼働時間によらない、④プロダクションとの関係で時間的に拘束されないことの4つの要件を満たす場合は個人事業者に該当し、いずれかを満たさない場合は労働者に該当するとしております(厚労省昭和63年7月30日、355号)。
コメント
本件で恩田さんは、働き方の実態は労働者と変わらないとして労働保険審査会に再審査請求を行っております。厚労省通達の基準ではある程度自身で演技の提供をマネジメントできる場合、つまり大物芸能人ほど個人事業主としての性質が強く労働者に該当しにくくなると言えます。詳細は不明ですが、恩田さんの場合も所属事務所からの拘束の程度や時間管理等の自由度が焦点になってくるのではないかと思われます。以上のように「労働者」に該当するかは契約の名目よりもその実態から、指揮監督下にあるか、その対価として給与を受け取っているかを判断されることとなります。業務委託契約などの契約形態を採っている場合は今一度その実質面を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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