受動喫煙で労働審判申立て、健康増進法について
2020/11/25 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
IT企業の元社員が、職場で受動喫煙対策が取られず退職を余儀なくされたとして、社員としての地位確認を求める労働審判を東京地裁に申し立てていたことがわかりました。職場は経営者の自宅兼用だったとのことです。今回は今年4月に施行された改正健康増進法を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、申立人が勤務していた東京都内のIT企業の職場は経営者の自宅兼マンションの一室で、区切りが設置されていない台所が喫煙場所になっていたとされます。同人は昨年7月に育児休暇から復職したところ受動喫煙により咳が止まらなくなって医師の診断を受け休職、会社側は喫煙所を壁などで区切るといった対策も拒否したとのことです。同人は退職し、17日東京地裁に労働審判を申し立てております。
改正健康増進法による規制
今年4月からの改正健康増進法施行により、屋内が原則禁煙となるなど望まない受動喫煙を防止する施策がなされております。受動喫煙を原因とする年間死亡者が1万5000人に登るとされており、東京五輪開催までに国内での喫煙対策を図ることも目的と言われております。改正健康増進法では対象施設の区分に応じて禁止の範囲が定められており、屋内だけでなく敷地内原則全面禁煙の施設や逆にこれまで同様屋内での喫煙が可能な施設もあります。違反した施設には都道府県知事等による指導がなされ、改善がみられない場合には勧告や命令、それでも改善が見られない場合は公表や過料となります。
改正健康増進法の対象施設区分
(1)第一種施設
まず第一種施設として指定されているのは学校や病院、診療所、薬局や児童福祉施設、行政機関などです。これら公共性が高い施設ではもっとも規制が強く、屋内だけでなく敷地内全域で原則として禁煙となります。しかし敷地内に野外喫煙所を設置することは可能となっております。
(2)第二種施設
上記第一種施設以外の施設は原則として第二種施設に該当することとなります。飲食店やホテル、旅館、事務所、旅客運送事業船舶や鉄道、国会や裁判所等もこれらに含まれるとされております。企業のオフィスや事業所などもこれに該当することとなります。第二種施設では原則として屋内が禁煙とされます。
(3)喫煙目的施設
バーやスナック、タバコ販売店など、本来喫煙自体を目的とする施設では屋内でも喫煙が可能となります。ただしこれらの施設でも屋内で喫煙をするには、喫煙室からそれ以外の場所への煙の流入を防止する基準に適合していること、出入り口の見やすい場所に喫煙可能である旨と20歳未満の者の立ち入りが禁止されている旨の表示をするなど要件を満たす必要があります。
喫煙可能室等の設置
第二種施設では一定の要件のもと屋内に喫煙を可能とする場所を設置することが可能です。まず飲食店では、今年4月1日以降の新規店、客席面積100㎡超え、資本金5000万円超えのいずれかである場合は喫煙専用室または加熱式たばこ専用喫煙室を設置することが可能です。後者の場合は同時に飲食も可能となります。なおこれらの条件を満たさない既存の小規模店舗の場合は全席喫煙やエリア分煙を経過措置として継続することが可能です。企業のオフィスや商業施設等の場合もやはり屋内に喫煙専用室または加熱式たばこ専用喫煙室を設置できます。これらの喫煙室は出入り口の秒速0.2m以上の風速の確保や煙が漏れないよう区画の設置、煙の屋外排出、喫煙室である旨の表示などが必要となります。
コメント
本件で労働審判申立人側の主張によりますと、勤務していた職場は経営者の自宅兼用のマンションの一室で壁などで区切られていない台所が喫煙場所となっていたとされます。上記のように改正健康増進法ではオフィスや事務所など企業の職場は第二種施設に該当し屋内は原則禁煙で外部に漏れないよう区画され、外部に排出される措置が施された喫煙室が必要となります。申立人側の主張が事実であった場合は地位の確認が認められるかはともかく、健康増進方違反となる可能性が高いと言えます。近年日本の喫煙対策は諸外国に比べ大幅に遅れていると指摘がなされており、東京五輪を控え政府も対策に力をいれております。明確な喫煙場所を設置できていない事業所は、上記要件を念頭に法定の条件を満たした喫煙室の設置を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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