逗子市斜面崩落でマンション所有者を提訴、土地工作物責任とは
2021/07/16 訴訟対応, 民法・商法, 民事訴訟法, その他
はじめに
昨年2月、神奈川県逗子市で斜面が崩落し、市内在住の県立高校3年の女子生徒(当事18)が死亡した事故で、遺族らが斜面地を所有するマンションの区分所有者や管理組合などに対し1億1800万円の損害賠償を求め横浜地裁に提訴していたことがわかりました。今回は民法の土地工作物責任について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年2月、逗子市内のマンションの敷地内の斜面が崩れ、隣接している道路を歩いていた県立高校の女子生徒が土砂に埋もれ死亡したとされます。事故は2月5日午前8時頃発生し、石垣で補強されていなかった斜面の上部から約68トンの土砂が崩落したとのことです。
神奈川県の発表では崩落前日にマンション管理人が斜面に亀裂を発見し、管理会社に報告していたとされます。亡くなった女子生徒の遺族はすでに業務上過失致死等の容疑で管理会社や区分所有者らを逗子署に刑事告訴しており、さらに安全対策を怠っていたとして1億1800万円の賠償を求め提訴しておりました。
土地工作物責任とは
民法717条によりますと、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は損害の賠償する責任を負うとされております。他人に損害を生じさせる可能性のある瑕疵ある工作物を支配している者は、その危険が実現した場合にはその責任も負うべきとの危険責任の法理がその趣旨と言われております。
責任を負うのは第一次的にはその占有者で、二次的に所有者となっております。所有者が責任を負う場合は無過失責任とされ、注意義務を果たしていたと立証しても責任は免れません。
工作物責任の要件
土地工作物責任が発生する要件は、「土地の工作物」の設置・保存に瑕疵があること、占有者が必要な注意を怠っていたこととなります。
設置・保存に瑕疵があるとは、工作物が客観的に通常有すべき安全性を欠いている状態を言うとされております(最判昭和45年8月20日)。そして上でも触れたように一次的に責任を負うのは当該工作物の占有者とされておりますが、必要な注意を怠らなかったことを証明した場合には免責され、責任は所有者が負うこととなります。二次的な責任者である所有者は無過失責任となり免れません。
本規定が適用されるのは工作物だけでなく、「竹木」についても準用されております(同2項)。なお責任を負うこととなった占有者または所有者は、損害の原因について他に責任を負うべき者、例えば工事業者等が瑕疵を生じさせていた場合にはその者に求償することも可能です(同3項)。
土地の工作物とは
土地の工作物責任で最も重要な要件は、当該損害を発生させた物が「土地の工作物」と言えるかという点です。「土地の工作物」とは土地に接着して人工的に作出した物およびそれと一体として機能する物と言われております(大判昭和3年6月7日)。
認められた例としては、橋、石垣、電柱、堤防、道路、屋上の駐車場、プール、建物の窓、エレベーター、エスカレーター、工場内の機械、プロパンガスボンベおよび高圧ホース、ゴルフコース、スキーのゲレンデ、埋戻しをした地盤などが挙げられます。逆に否定された例として土砂の集積場があります(岡山地裁昭和45年8月13日)。ただ土地に置かれているだけで土地との接着性が低いことが理由と言われております。
コメント
本件で問題となったのはマンション敷地内にある斜面で、石垣等による補強がなされず、土がむき出しになっていた部分です。その部分には亀裂が見つかっており、通常有すべき安全性を欠いている状態だったと認められる可能性は高いと言えます。しかし被告側は崩落部分は造成地ではないため土地の工作物には該当しないと反論しているとされます。今後工作物に該当するかが争点になってくるものと考えられます。
以上のように、土地の工作物の瑕疵によって損害が生じた場合は、まず土地の賃借人等の占有者が責任を問われます。占有者に責任が無い場合は所有者が責任を負い、この場合所有者は免責されません。土地を貸している場合や借地で事業を行っている場合は、設置物に問題は無いか今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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