経営破綻の「大沼」不起訴妥当、解雇予告手当とは
2021/07/19 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
昨年1月に経営破綻した山形県の百貨店「大沼」が事前に従業員に解雇を予告しなかったとして書類送検されていた同社社長が不起訴となったことを巡り、山形検察審査会は不起訴処分を妥当と判断しました。
元従業員3人が今年5月に審査申し立てを行っていたとのことです。今回は労基法の解雇予告について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、山形県山形市で百貨店を運営していた株式会社大沼はかねてから経営再建を図っていたものの2019年の消費増税による売上減少や、入札談合の疑いによる公取委の立ち入り調査を受けたことなどから経営が破綻し昨年1月26日に本店を閉店し、従業員を解雇したとされます。
その際従業員に事前に解雇予告をせず、解雇予告手当約4000万円を支払わなかったとして、山形労働局は同社と社長を労働基準法違反で書類送検していたとのことです。
山形地検は当事の社長の事情や財産関係を考慮して不起訴処分にされておりました。これに対し元従業員3人が検察審査会に審査申し立てを行っていたとされます。
労基法の解雇予告義務
労働基準法20条によりますと、使用者は労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされております。
違反した場合には罰則が規定されており、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております。
これは必ず30日前までに予告するか30日分の賃金を支払わなければならないというものではなく、予告から解雇までの期間が30日に満たない場合は不足する日数分の解雇予告手当を支払えば良いということです(同2項)。
解雇予告が不要な場合
この解雇予告義務には例外があり、天災、その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由により解雇する場合は適用除外となります(20条1項ただし書き)。
地震などの災害や従業員が窃盗や横領、重大な経歴詐称、長期無断欠勤、その他社内の風紀を著しく乱す違法行為などを行ったといった従業員側の懲戒事由による解雇の場合には解雇予告は不要ということです。
こういった場合には会社側が労働基準監督署に届け出て、解雇予告除外認定を受けることにより解雇予告手当の支払い義務が免除されます。
具体的な解雇予告手当
解雇予告手当は平均賃金に不足日数を乗じた額とされております。ここに言う平均賃金とは過去3ヶ月分の賃金合計額を過去3ヶ月の日数で割ったものとなります。この日数は出勤日数ではなく土日等も含めたすべての日数とされております。
ここに算入される賃金は基本給や各種手当、未払い分などが含まれますが、賞与などは含まれません。また産休や育休、傷病での休暇、試用期間は除いて3ヶ月分が算定されます。
なお解雇予告手当は最低保証額を下回ってはならず、過去3ヶ月分の賃金合計額を過去3ヶ月の実労働日数で割って0.6をかけた額が下限となります(12条1項1号、2号)。
コメント
本件で百貨店大沼は2020年1月に取引業者約500社への支払い分約4億円が調達できないとの報道がなされてわずか数日後の同月26日に山形地裁への破産手続き開始申し立てと閉店・解雇を行いました。1月26日の30日前までに予告を行うか、30日分の平均賃金を支払う必要があったと言えますが、山形地検は当事の混乱した状況と財政状況を考慮して不起訴処分としたものと考えられます。
以上のように天災などの特別の事情や従業員側の事情による場合以外の解雇の際には解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。除外となる場合も労基署への届出が必要となってきます。解雇を検討している場合には今一度これらの規定を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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