破れかぶれの乗っ取り劇!?春日電機元社長ら特別背任の疑いで逮捕
2011/01/12 商事法務, 戦略法務, 会社法, メーカー
警視庁捜査2課は12日、返済能力がないことを知りながら自身が実質的に経営する電子部品販売会社(以後、別会社)に計5億5千万円を貸し付けて損害を与えたとして、特別背任容疑で電子部品製造会社「春日電機」(本社・東京)の元社長篠原猛ら3人を逮捕した。
21年4月に春日電機側が同人らを告訴していた。篠原容疑者は容疑を認めているという。
16年4月に前記別会社を設立した篠原容疑者は20年6月、同社などを通じて春日電機の発行株の約40%を取得、直後の株主総会で創業者一族の取締役再任を否決して社長に就任。
同年6~7月、別会社に、無担保で5回にわたって計5億5000万円を不正に貸し付け、春日電機に損害を与えた疑い。
このうち1億円については、太陽電池の共同開発を名目とした技術開発費をうたっていたが、ほとんど実体はなかったとみられている。また、別会社は結局、1億7000万円しか返済していなかったが、篠原容疑者は、逮捕前に「融資は株を売って返済しようと思ったが株価が下がってしまった。最初から焦げ付くと思って融資したわけではない」と主張している。
なお、春日電機は昭和20年設立、東証二部上場の業界大手メーカーだったが、篠原容疑者が主導した別会社への融資などが原因で21年2月に上場廃止となり、同年6月に会社更生手続きを申請している。現在は同社から事業譲渡を受けた別の会社が商号を変更せずに営業を続けている。
ところで、筆者が以前話を伺った検察官OBによると、検察庁内部では、背任罪は無罪ギリギリの犯罪として最も処理が難しい犯罪とされており、「背任が扱えるようになって一人前」とされているそうだ。背任罪が損害が生じて初めて成立する犯罪であり、損害発生の有無は結果論でしか語れない部分があるために、犯意の認定が困難であることが理由だそうだ。
事実、中国での遺棄化学兵器処理事業に絡み、計約1億2000万円を関連会社向けに支出させて、建設コンサルタント会社PCIに損害を与えたとして特別背任容疑で元PCI幹部が逮捕された PCI事件では、当該支出は「グループ会社への支援として許容しうるもので、経営判断として一定の合理性がある 」として、東京高裁で被告人の無罪が確定している(東京高裁2010.5.10)。
しかし、今回は、そのような、きわどい経営判断が問題となる事例とは異なる。
資本金約22億円、社員は200人に満たない家族的経営の春日電機が、経営難により、株式に転換できる社債を発行。これに乗じて乗っ取り屋との風評のあった篠原容疑者が同社を乗っ取り、その3日後に、多額の融資を無担保で強行し、自身が保有する別会社株式の下落による損失の補填にあてたものである。
篠原容疑者は膨大な借金を抱えているとも話しており、あるいは、破れかぶれで行った、逮捕覚悟での乗っ取り劇であったのかもしれない。そうだとすれば、何ともお粗末な事件とも言えるが、この乗っ取り劇により職を失った社員は多数にのぼり、社員からすると悲劇以外の何ものでもない。
景気がなかなか上向かない現況、このように資金繰りに困った実業家による破れかぶれの乗っ取り劇が増加する可能性もありうる。今回のような悲劇を生まないためにも、中小規模の上場企業は、改めて企業防衛を再検討すべきであろう。
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