厚生労働省/長崎労働局、有給の時季指定義務違反等の状況を初公表
2022/10/05 労務法務, 労働法全般
はじめに
9月12日、厚生労働省/長崎労働局は、令和3年度における年次有給休暇の時季指定義務違反等の状況を取りまとめ、公表しました。長崎労働局の公表によると、監督指導実施事業場1539事業場の内、年次有給休暇の時季指定義務違反が認められた事業場数が238事業場(15.5%)、年次有給休暇管理簿の作成・保存に関する違反が認められた事業場数183事業場(11.9%)と発表されました。長崎労働局が管内企業における年次有給休暇の時期指定義務違反の状況を公表するのはこれが初めてです。
年次有給休暇の時季指定義務とは
使用者は、業種・業態にかかわらず、また、正社員・パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。
年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされていますが、同僚への遠慮や、休暇を請求することへの罪悪感等の理由から、取得率が低調な状況が続いており、厚生労働省として、年次有給休暇の取得促進が課題となっていました。
そこで、年次有給休暇取得促進策の一環として、2019年4月より、改正労働基準法に基づき、法定の年次有給休暇の付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、その付与日数のうち「年5日については、使用者が取得時季を指定して与えること」が使用者に義務付けられました。
従業員に年5日の年次有給休暇を取得させることができなかった場合、労働基準法39条7項違反として、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、使用者が時季指定を行うには、予め就業規則に時季指定の方法や対象となる従業員の範囲などを規定しておかなければなりませんが、就業規則の記載なしに使用者が時季指定を行った場合、労働基準法第89条違反として30万円以下の罰金が科される可能性があります。
時季指定義務違反の主な理由
長崎労働局の調査によりますと、時季指定義務違反となった事例での主な理由は以下です。
(1)法の不知によるもの
(2)人手不足のため
(3)店長、チーフ、専門職など重要な職務の方などの理由により、時季を指定して休暇が取らせにくい
慢性的な人手不足となっている業界も多いため、(2)については、課題解消は簡単ではないかもしれませんが、計画的な年次有給休暇取得をルール化する、業務の閑散期を利用しての積極的な休暇取得の推奨などの環境づくりが求められます。
【参考】過去の送検事例
年次有給休暇の時期指定義務違反に関しては、令和3年7月に、労働者6人に対して年次有給休暇取得の時季指定を怠ったとして、愛知県の給食管理業者と各事業場の責任者(店長)3名が書類送検されています。当該事例では、複数の労働者から「有給休暇が取得できない」との相談が寄せられたことから問題が発覚し、取得調整が十分可能であったとして、10人以上の3事業場の店長のみ、送検対象となっていました。
コメント
政府は、「少子化社会対策大綱」、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」等で 2025年までに年次有給休暇取得率を70%に引き上げることを目標としています。その一方で、全国の年次有給休暇取得率は、改正労働基準法施行前の平成30年が51.1%、改正労働基準法施行後である令和3年が56.6%と僅かな伸びを見せているに留まっており、目標の70%達成は現状では難しい状況です。
しかし、県単位で見た場合、今回発表を行った長崎労働局が管轄する長崎県においては、平成30年が50.9%だったのに対し令和3年は65.5%と、大幅な伸びを見せており、後3年での70%台到達も十分視野に捉えています。長崎労働局の有給休暇取得促進の取り組みへの積極性が反映された結果ともいえると思います。
2025年が迫る中、政府目標を達成するべく、長崎労働局に限らず各都道府県の労働局が有給休暇取得促進の取り組みを加速させることが予想されます。それには、企業に対する監督・指導・取締まりの強化も当然含まれ、時季指定義務違反を理由とした送検事例が増えることも考えられます。
この機会に、今一度、自社の社員の有給休暇の取得状況、時季指定義務の遵守状況を確認しておくとよいのではないでしょうか。
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