妊娠を理由に退職を余儀なくされ、元技能実習生が提訴
2022/10/12 労務法務, 労働法全般
はじめに
妊娠を理由に帰国を迫られ、不当に退職させられたとして、元技能実習生のフィリピン人女性(26)が大分市の監理団体と高齢者福祉施設の運営法人を相手取り慰謝料などを求め提訴していたことがわかりました。実習生の厳しい現状を明らかにしたいとのことです。今回はマタハラ規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の女性は2019年9月に介護職の実習生として来日し、翌月から福岡県の特別養護老人ホームで入所者の着替えや入浴、食事などを介助する仕事に従事していたとされます。2021年4月に妊娠が判明したことから、監理団体に産休を取得して帰国し、出産後に実習に復帰したい旨伝えたとのことです。しかし監理団体の理事から帰国同意書への署名を強いられたり、施設での勤務を外されたりしたため、やむを得ず退職したとされます。監理団体は女性に、契約違反で罰金を支払い、フィリピンに戻らなければならないと説明し、また女性のパートナーの男性にも暗に中絶を進めていたとしております。
男女雇用機会均等法による規制
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠、出産、育児などを理由として職場での不利益な取り扱いや嫌がらせを言います。このマタハラについては各種法令で禁止されており、そのような体制の構築も求められております。まず男女雇用機会均等法9条では、女性労働者の婚姻、妊娠、出産を理由とする退職予定の定めや、解雇、その他の不利益取り扱いを禁止しております。妊娠中の女性労働者または出産後1年を経過しない女性労働者の解雇は無効とされております(同4項)。また事業主は、女性労働者の妊娠、出産、産休の利用等に関する言動により、職場環境ががいされることがないよう、相談に応じ、また適切に対応するために必要な体制の整備、その他の必要な措置を講じることがもとめられております(11条の3第1項)。
育児介護休業法による規制
育児介護休業法10条によりますと、事業主は労働者が育児休業申出をし、または育児休業をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならないとしております。こちらは上記の男女雇用機会均等法での規制と異なり男性労働者も対象に含まれます。そして事業主は、労働者が育休、介護休業その他子の養育、家族の介護等に関する言動により、労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じなければならないとしております(25条1項)これも上記男女雇用機会均等法での体制整備義務と同様のものと言えます。
事業主が講ずべき措置
厚労省のガイドラインによりますと、事業主が講ずべき措置として、(1)マタハラに関する方針の明確化と周知・啓発、(2)相談に応じ適切に対応するための体制の整備、(3)職場でのマタハラに対する迅速かつ適切な対応、(4)マタハラの原因や背景となる要因の解消が挙げられております。就業規則や服務規律等へのマタハラへの方針や内容、背景等の記載、社内HPやパンフレットでの周知、相談窓口の設置と担当者の任命、外部機関への相談対応の委託、またマタハラがあった際の相談窓口や担当者による事実確認、中立な第三者機関での調停、メンタルヘルス不調への相談対応といった事後的な対応の準備などが例示されております。さらに実際にマタハラを行った当事者と被害を受けた労働者との謝罪や関係改善などに向けた会社による援助などについても例として挙げられております。
【関連リンク】
事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針
コメント
本件で元技能実習生であったフィリピン人女性は、日本での技能実習中の妊娠を理由に帰国を迫られたり、勤務から外されたとされております。これが事実であった場合は、妊娠を理由とする不利益取り扱いに該当し違法となる可能性が高いと言えます。技能実習生も日本人労働者と同様に労働関係法令が適用されますので、日本人労働者と同じようにマタハラ規制が適用されるということです。以上のように現在妊娠、出産等を理由とする解雇や異動など不利益取り扱いは違法となっており、また事業主にはそのようなことがないよう職場内での体制を整備する義務が課されております。また今年4月から男性の育休の分割取得や労働者への周知、意思確認が義務付けられております。しかし厚労省の調査では、近年これらのマタハラやパタハラによる相談件数は右肩上がりで上昇しており、今なお課題は多いと言えます。これらの情勢や法改正などに注視しつつ社内での対応状況を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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