政府が業界団体に要望書、「オワハラ」とは
2023/04/11 労務法務, 労働法全般
はじめに
政府は10日、現在の大学2~3年生にあたる2025年~26年春卒業組の就職活動のルールを策定し、各業界団体に「オワハラ」を行わないよう要請する方針であることがわかりました。職業選択の自由を妨げる行為とのことです。今回は近年問題化している「オワハラ」について見ていきます。
政府の決定
政府は10日、文部科学省などの関係省庁連絡会議で就職活動でのルールを決定し、「2024(令和6)年度卒業・終了予定者等の就職・採用活動に関する要請等について」が1250の経済団体・業界団体に通達されました。昨年はセクハラ防止の徹底が盛り込まれておりましたが、今回はオワハラの防止について強く言及されております。具体的には、学生の弱みに付け込んだ職業選択の自由を妨げる行為、正式な内定前に他社への就職活動の終了を迫ったり、誓約書等を要求する行為、内定辞退後に研修費用の返還を求める行為などを行わないよう徹底することが求められております。またこれらの行為に対応するため、ハローワーク等と連携して相談窓口を設置するとされております。
オワハラとは
「オワハラ」とは、「就活終われハラスメント」の略とされ、企業が内定を出した就活生に、他社の選考辞退や自社への入社を強要するといった行為を言います。2015年の流行語大賞にノミネートされたことから一般に知られるようになったと言われております。その背景には、ここ数年の景気の回復傾向から企業による人材獲得の競争激化があるとされ、また経団連による採用選考開始時期の後ろ倒しもその要因の一つと言われております。これは学生の学業の妨げにならないよう、政府によって要望されたもので2015年から経団連加盟企業は8月から選考開始となりました。しかし経団連に加盟していない中小企業はそれ以前から選考を始めており、中小企業で内定を受けた学生が、その後経団連加盟の大手企業の内定を受けることによって、内定を辞退することを防止するためオワハラが行われるようになったと言われております。
オワハラの態様
オワハラには様々な態様がありますが、まず典型的な例として、内定を出す代わりにそれ以降他社の面接や説明会に出席しないことを確約させたり、入社承諾書の提出を迫るといったものが挙げられます。極端な例ではその場で他社に辞退の連絡を入れさせたというものもあるとされます。このように直接的に圧力をかけなくとも、内定者に他社の説明会や面接に出席できないよう、研修や親睦会などを繰り返し行い、内定者を束縛しようとする例も挙げられます。こちらも極端な例では就活生のスケジュールを確認した上で、他社の面接日などに合わせて親睦会などを開催したといった例も報告されております。それ以外でも役員などが過剰に食事会を開催したりすることによって恩義を感じさせ、内定を辞退しにくくさせるといった例も指摘されております。
オワハラのリスク
これらオワハラは程度にもよりますが、場合によっては違法な行為となることがあります。たとえば内定を辞退した就活生に謝罪文を書かせたり、他社の内定を無理やり辞退させた場合は強要罪に該当する可能性があります(刑法223条1項)。また内定を辞退したら賠償請求するなどと脅した場合には脅迫罪に該当ことも有りえます(222条1項)。前者は3年以下の懲役、後者は2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっております。このように刑事事件にまではいたらなくとも、就活生の就職活動を不当に妨げ、職業選択の自由を侵害し、精神的な苦痛を与えたとして民事で損害賠償の請求がなされることも考えられます。さらにオワハラが行われたとSNSなどで拡散され炎上した場合は会社の企業イメージが大幅に悪化することも想定されます。それにより将来の人材確保も困難となることも考えられます。
コメント
現状いわゆるオワハラに関する裁判例等はまだ見られず、どのような場合にオワハラに該当するかについても明確な基準はありません。しかし今回のように政府が業界団体にオワハラの防止を強く要請してきたように、社会での注目度も上がっており、将来法規制化やガイドラインの作成なども考えられます。上でも述べたようにオワハラに該当するかは程度問題と言え、社会通念上相当な範囲で内定者に内定承諾書を求めるといった行為は問題無いと言えます。また逆に就活生側も不適切な内定辞退などオワハラを招く要因となっていると指摘されております。どのような場合にオワハラとなるか、また不適切な内定辞退による損害をどのように防止するかを今一度検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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