東京地裁、ダイヤモンド・プリンセス運航会社の解雇を有効判断
2023/05/31 労務法務, 労働法全般
はじめに
大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の運航会社の日本法人から解雇された元従業員の男性が、解雇は無効だと訴えていた訴訟で29日、東京地裁が解雇を有効とする判決を出していたことがわかりました。人員削減の高度な必要性があったとのことです。今回は整理解雇4要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、3月以降各国で運航停止措置がとられたとされます。同年6月、同船の運航会社はコロナ禍による業績悪化を受けて従業員22人に退職勧奨を行い、応じなかった原告男性ら7人を整理解雇したとのことです。原告側は雇用調整助成金など国の支援策を使って解雇を避ける努力をしなかったなどとして同社を相手取り東京地裁に提訴しておりました。なお他の元従業員は2022年12月に同社と和解済みとのことです。
整理解雇とは
整理解雇とは会社の経営上の事情で一方的に従業員を解雇することを言います。能力不足や無断欠勤、懲戒事由などを理由とする解雇とは違い従業員側の事情ではなく、人員削減という会社側の事情によるところに大きな特徴があります。そのため普通解雇や懲戒解雇よりも厳格な手続きを要します。近年の新型コロナウイルスの感染拡大や世界情勢の不安定化などによるコストの増加等で経営状況が悪化し、部署の統廃合や余剰人員の削減が必要となっている会社は増加しており、整理解雇に踏み切る企業も少なくないと言われております。以下整理解雇の具体的な要件について見直していきます。
整理解雇4要件
普通解雇や懲戒解雇の場合、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」であることが求められます(労働契約法16条)。いわゆる解雇権濫用の法理です。これは整理解雇も例外ではありません。そして従業員個人の事情ではなく会社側の事情による解雇であることから、さらに4つの要件が課されております。これらを一般に整理解雇4要件と言います。(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)人員選定の合理性、(4)解雇手続きの妥当性となっております。人員削減の必要性は高度の経営危機にあることを客観的に示す必要があります。解雇回避努力義務については、希望退職の募集や役員報酬削減、配置転換などの努力をしたかが重要です。人員選定の合理性では、勤務地や所属部署、担当業務、勤務年数、成績、年齢、家族構成など様々な要素を考慮することとなります。そして解雇対象者や労組、労働者の過半数を代表する者と十分に協議し納得してもらうことも必要です。
整理解雇に関する裁判例
人員削減の必要性は認められたものの、解雇回避努力や人員選定の合理性、解雇手続きの妥当性が否定された事例が存在します。この事例では毎月約2億円の経常損失を出していたことから人員削減の必要性は認められました。一方希望退職の募集や臨時社員の全面的な削減、配転などが行われておらず解雇回避努力が不十分とされました。また人事考課で評価が低いにもかかわらず対象となっていない者がいるなど選定基準が不合理とされ、また解雇対象者との面談で整理解雇である旨も明らかにしていなかったとして解雇を無効とされました(横浜地裁平成18年9月26日)。これに対し、会社側が配転や出向の提案など真摯に解雇回避努力を行ったにもかかわらず、従業員側が真摯に対応しなかったとして整理解雇が有効とされた事例もあります(東京地裁平成30年10月31日)。なお特殊な事例として会社更生手続中の会社でも整理解雇4要件が適用されるとした裁判例も存在します(大阪高裁平成28年3月24日)。
コメント
本件で東京地裁は、ダイヤモンド・プリンセス号が日本での集団感染の端緒となっており信頼回復に時間を要すること、1年程度は売上が得られない可能性が高かったことなどから人員削減の必要性が認められ、解雇回避努力や人員選定の妥当性も認められるとして整理解雇を有効としました。以上のように整理解雇には4つの要件があり、従業員側に解雇事由が無い分厳格なものとなっております。近年これら4つを要件ではなく判断要素とし、全てを満たさなくとも総合的に考慮して解雇を有効と判断する裁判例も増加してきたと言われております。しかし多くの事例で解雇回避努力をどの程度行われたかが細かく検証されることが多いと言えます。整理解雇の際には、これら4要件を踏まえつつ、従業員に真摯に向き合う努力を示すことが重要と言えるでしょう。
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