厚労省、外国人技能実習生の受け入れ事業者7200件超で法令違反と発表
2023/08/09 労務法務, 労働法全般
はじめに
厚生労働省は、技能実習生を受け入れる事業所のうち、労働基準関係法令違反が疑われる事業所9,829件の監督指導を実施し、そのうち73.7%に当たる7,247件で法令違反が認められたと発表しました。
長年、海外から日本へ技術を学びにきた人々の労働環境が問題視されてきましたが、改めて浮き彫りとなった形です。今回明らかになった、違反行為の内容等をみていきます。
7割以上の事業所で違反
今回、厚生労働省が取りまとめたのは、全国の労働局や労働基準監督署が令和4年に外国人技能実習生が在籍している事業場に対して実施した監督指導や送検等の状況について。労働基準関係法令違反が認められた事業所は、監督指導を実施した事業場のうち7割以上に登ったと発表されました。主な違反事項は多い順に、以下のような結果となりました。
・使用する機械等の安全基準(23.7%)
・割増賃金の支払(16.9%)
・健康診断結果についての医師等からの意見聴取(16.1%)
また、違反の重大性・悪質性により送検に至った事例は21件にのぼっています。
業種別には、土木工事業、建築工事業などの「建設」の分野で8割以上、農業・畜産業の「農業」と「食料品製造業」の分野では、7割以上の事業所で違反が確認されたということです。
具体的な事例
では、どういった違反が監督指導や送検の対象とされるのでしょうか。実際の事例を抜粋してみていきます。
■監督指導された事例
(1)労働安全衛生法が定める「就業制限」違反
建設資材等の製造を行う事業場において、つり上げ荷重が1トン以上のクレーンで資材を貨物自動車の荷台に載せる作業を行った際、資格のない技能実習生に玉掛け作業を行わせていた事案。
(労働安全衛生法第61条第1項(就業制限)違反、労働安全衛生法施行令第20条第16号)
労基署は「技能講習を修了していない労働者に、玉掛け作業を行わせてはならない」との是正勧告を行いました。勧告を受けて、会社側は、母国語での対応が可能な講習機関で全技能実習生に対して玉掛け作業の技能講習を修了させたほか、労働者が保有する資格一覧表を作成。工場内に掲示し、各労働者が従事することができる業務を周知しました。さらに、有資格者以外の労働者に業務に就かせることがないよう、社内で周知・徹底を行いました。
(2)労働基準法が定める「賃金の支払」に関する違反
農業を行う事業場で、始業開始前の朝礼に参加しているにも関わらず、タイムカード打刻が朝礼後に行われていた事案。
(労働基準法第24条第1項(賃金の支払)違反)
労基署は朝礼時における労働時間の賃金が支払われていなかったことについて是正勧告を行いました。これを受けて、会社側は技能実習生を含む労働者に対し、参加が義務づけられている朝礼の対応時間を精査。過去に遡り、およそ65万円の賃金を支払いました。
■送検事例
機械部品の製造業を行う事業場にて、技能実習生3人に対し、36協定で定める延長時間を超える1か月当たり100時間以上の違法な時間外・休日労働を行わせ、さらに、連続する複数の月を平均して1か月当たり80時間を超える違法な時間外・休日労働を行わせていた事案。この事業場では、過去にも繰り返し長時間労働に関する法違反があったため、捜査に着手したといいます。
結果として、実習実施者である法人、さらに工場長は労働基準法第32条(労働時間)違反、労働基準法第36条第6項第2号、3号(時間外及び休日の労働)違反で送検されています。
コメント
コロナ禍で一時受入人数が減少したものの、昨年末時点で技能実習生の数は32万人を超えており、再び増加傾向にあります。各業界で人手不足が叫ばれている状況下で、今後受け入れを検討する企業はさらに増えると考えられます。
技能実習生については、入国直後の講習期間以外は、受け入れ企業との雇用関係の下、労働関係法令等が適用されることになっていますが、その辺の切り替えがうまく出来ていない企業が多く見られます。
単に自社の人手不足の解消手段として、技能実習制度を利用するのではなく、「開発途上地域の“人づくり”に協力する」という意識のもと、技能実習生に対しても、労働法上求められる環境を等しく準備したうえで受け入れを行う必要があります。
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