西武池袋で異例のストライキへ、労組法上の争議行為について
2023/08/31 商事法務, 労務法務, 戦略法務, 労働法全般, 会社法, 小売
はじめに
百貨店「そごう・西武」の労働組合は28日、西武池袋本店で31日にストライキを開始すると経営側に予告通知を行ったことを明らかにしました。百貨店でのストライキは61年ぶりとのことです。今回は争議行為について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、「そごう・西武」の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは米投資ファンドのフォートレス・インベストメントグループにそごう・西武の株式を譲渡する方針を示しております。これに対しそごう・西武の労働組合はセブン&アイに百貨店事業の継続や従業員の雇用維持を保証させるため、同社の臨時取締役会に合わせてストライキを実施する旨を通知したとされます。臨時取締役会で売却決議が見送られた場合はストは中止となり、再び取締役会の準備に入ればストの実施を予告する方針とのことです。西武池袋本店でそごう・西武が直接運営する売り場は一部とされますが、ストが実施された場合は全館休業となる見通しとされており、消費者等への影響は大きいとのことです。
争議行為とは
団体交渉を重ねても、労使間の主張が一致しない場合に労働者側、使用者側双方で争議行為を行うことができるとされます。これは憲法28条が保障する労働三権の一つで、正当な争議行為については刑事上または民事上の責任が免責されております(労働組合法1条2項、8条)。つまり争議行為によって会社の業務を阻害することとなっても刑事罰や損害賠償責任を負わないということです。また不当労働行為の禁止により、争議行為を行ったことを理由として不利益に取り扱うといったこともできないようになっております(7条)。労働関係調整法7条によりますと、争議行為とは「同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するもの」とされております。労働関係に関する主張を貫徹するための労働者、使用者双方に当てはまる行為と言えます。
ストライキとは
ストライキとは、同盟罷業とも言い労働組合の統制下で労働者が労働力の提供を拒否する行為とされております。ストライキにh組合員全員が参加する全面ストと一部の組合員にのみ行わせる部分ストがあり、また組合によって指名された組合員のみが行う指名ストも存在します。実施する時間的範囲によって、無限ストや時限スト、波状ストなどと呼ばれることもあります。労務提供を完全に拒否するのではなく、質的・量的に不完全な提供を行う場合を怠業と言います。ストライキに際して労務提供の拒否だけでなく座り込みなどで職場を占拠する行為や、企業が管理する施設などを労組の支配下に置いて企業の代わりに管理運営を行うといった付随行為が行われることもありましたが、これらは正当な争議行為ではないとされております。
ストライキの手続き
ストライキを適法に行うにはまず労働組合の組合員または組合員の直接無記名投票によって選挙された代議員による直接無記名投票の過半数による決定を経てストライキ権を確立する必要があります(労働組合法5条2項8号)。これはスト権批准投票とも呼ばれ、ストライキを行うか否かについての組合員の意思確認を意味します。スト権を確立したら使用者側に通知または闘争宣言を行います。これについては労組法上の規定はありませんが協定で定められてる場合もあります。しかし運輸、郵便、電気通信、水道、電気、ガス、医療などの公益事業の場合は、争議行為のすくなくとも10日前までに労働委員会と都道府県知事に文書で予告通知を行う必要があります(労働関係調整法37条)。またこれとは別に争議行為が発生した旨の届出を労働委員会と都道府県知事に行う必要があります(9条)。この届出は口頭や電話でも可能です。
コメント
本件でそごう・西武の売却を予定しているセブン&アイでは9月1日の取締役会で米投資ファンドへの譲渡決議がなされるのではないかと見られております。そごう・西武の労組はそれを阻止するためストの実施を同社に予告通知したとされます。しかしセブン&アイ側は再建のために最善の道と信じているとしており、両者の話し合いは不透明と言えます。以上のように労働組合法等では労働者、使用者の両者に労働関係に関する主張についての争議行為が認められております。厚労省の調査によりますと、近年では労働争議の件数は一貫して減少傾向にあり、特に百貨店でのストライキは61年ぶりとされます。しかし争議権や団結権など労働三権は憲法上認められた権利であり、発生した場合には適切に対応していくことが求められます。今一度その手続きや不当労働行為にあたる行為などを確認し周知していくことが重要と言えるでしょう。
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