令和6年4月1日から施行、改正裁量労働制について
2023/10/10 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 法改正
はじめに
裁量労働制を見直す改正省令等が来年4月1日から施行されます。裁量労働制の導入や更新の際に必要な労使協定での協定事項などが追加されております。今回は改正の概要について見ていきます。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、実際に働いた時間とは関係なく、会社と労働者間の労使協定で定めた時間を働いたものとみなして賃金が支払われる制度をいいます。一定の仕事を遂行する上で、進行や時間配分などを労働者の裁量に委ねることができ、通常の労働時間に適さない業種にも柔軟に対応できます。たとえば1日のみなし労働時間を10時間と定めた場合、実際に働いた時間が8時間であっても11時間であっても減額や増額はなされません。このような裁量労働制の性質上、あらゆる業種・業態に適用できるものではなく、特定の業務にのみ適用されます。この特定の業務は大きく「専門業務型」と「企画業務型」に分かれており、前者は19の業務が、後者は8の業務が指定されております。今回の見直しで裁量労働制の対象となる業務が追加されております。
専門業務型裁量労働制とその対象
専門業務型裁量労働制は現在、(1)新製品・新技術の研究開発業務、(2)情報システムの分析業務、(3)新聞、出版、放送での取材・編集業務、(4)衣服、工業製品、広告等のデザイン考案業務、(5)放送番組等のプロデューサー、ディレクター業務、(6)コピーライター業務、(7)システムコンサルタント業務、(8)インテリアコーディネーター業務、(9)ゲームソフトウェア開発業務、(10)証券アナリスト業務、(11)金融商品開発業務、(12)大学教授の研究業務、(13)公認会計士業務、(14)弁護士業務、(15)建築士の業務、(16)不動産鑑定士業務、(17)弁理士業務、(18)税理士業務、(19)中小企業診断士業務となっております。今回の改正で新たに銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案・助言業務が追加されました。
協定事項の追加
裁量労働制を採用するに当たっては、(1)制度の対象とする業務、(2)対象労働者の範囲、(3)みなし労働時間、(4)業務遂行の手段や時間配分の決定等に関して使用者が具体的な指示をしないこと、(5)健康・福祉のための措置、(6)労使協定の有効期間、(7)対象労働者からの苦情処理のための措置などの事項を協定で定める必要があります。今回の改正で「専門業務型」の場合は労働者本人の同意を得ること、同意しなかった場合に不利益取扱をしないこと、同意の撤回手続、同意および同意の撤回などについて労働者ごとの記録を5年間(当面3年間)保存することが追加されております。「企画業務型」の場合については、同意を得ることと同意しなかった場合に不利益取扱しないことは従来から盛り込まれており、今回の改正で同意撤回の手続き、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に労使委員会に説明を行うことが追加されております。
その他の留意事項
今回の改正で健康・福祉確保措置に関していくつかの留意事項が追加されております。具体的には(1)勤務間インターバルの確保、(2)深夜労働の回数制限、(3)労働時間の上限措置、(4)一定の労働時間を超える対象者への医師の面接指導となっております。それら以外にも、年次有給休暇のついてまとまった日数連続して取得することを含めた取得促進、代償休日または特別な休暇の付与、健康診断、心とからだの健康問題についての相談窓口、適切な部署への配転、産業医等による助言・指導または対象労働者の産業医等による保険指導などが従来から留意事項として挙げられております。
コメント
以上のように今回の改正では労使協定での協定事項が追加されており、また専門業務型裁量労働制では本人の同意が必要となってきます。現在裁量労働制を導入している場合は、令和6年4月1日までにそれらの追加事項を含めた労使協定の再締結と労基署への届出、そして個別の同意をを得ておく必要があります。労使協定例(様式第13号)は厚労省のHPから閲覧することが可能です。裁量労働制は柔軟な働き方の促進、生産性の向上、優秀な人材の確保と定着など様々なメリットがある反面、加重な労働の押し付け、割増残業代等の労働法令の潜脱といったリスクも指摘されております。来年の改正法施行に向けて制度の趣旨や手続きなど、今一度確認し直して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
【関連リンク】
裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です(厚生労働省)
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