東日本大震災の遺族に刻々と迫る「相続放棄」のタイムリミット
2011/05/23 法務相談一般, 民法・商法, その他
東日本大震災の遺族に刻々と迫る「相続放棄」のタイムリミット
東日本大震災で死亡した被害者の遺族に対し、岩手県弁護士会では、相続放棄の手続期間の延長の申し立てを呼びかけている。
死亡した被害者の借金が、その財産以上にある場合、遺族がそのまま相続すると、原則として、その莫大な借金まで背負い、損をする結果となるのだが、「相続放棄」をすることで、財産を得られない代わりに、その借金を背負わずに済む。
しかし、今回の震災被害者の遺族にとって、この「相続放棄」をするか否かの判断は大変困難なものとなっている。
相続放棄の判断が困難な事情
今回の震災では、津波により、死亡した被害者の借金に関する書類が流されてしまっている例も多く、そのため、「相続放棄」をすべきなのか否かの判断が出来ないでいる遺族も多い。
また、遺族の多くは、震災前からある借り入れに加え、震災によって負った新たな債務に苦しむ、いわゆる「二重ローン問題」に苦しんでいるが、これに対する国の救済措置いかんによっては、震災によって負う新たな債務の負担が大幅に軽減される可能性がある。それゆえ、二重ローン問題に対する救済措置が定まらないうちは、例え、死亡した被害者に相応の借金があった場合でも、相続放棄をした方がいいとは必ずしも言えないのである。
なお、この相続放棄の手続きは、被相続人(この場合には、震災によって死亡した被害者)の「死亡を知ってから3カ月以内」と定められている。このままでは6月11日に多くの遺族が相続放棄をするか否かの判断を下せぬまま、申立期限を迎える可能性がある。
※相続放棄※
【民法915条1項】
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
【民法919条1項】
相続の承認及び放棄は、撤回することができない。
雑感
上述したように、今回のケースにおける相続放棄の有無の判断は、極めて困難な問題である。その判断の先延ばしを可能にするのが「相続放棄の手続き期間の延長の申し立て」なのだが、これをすべき遺族自身も被災している場合が多く、申し立ては進んでいないのが現状である。
これを受けて、新たな立法により、震災被害者の遺族の相続放棄期間を延長すべきとの声も上がっているが、相続は、相続人同士の利害関係も絡む問題であるから、震災被害者の遺族全員に一律に相続放棄期間の延長を認めるのは、妥当ではないと思う。期間延長により損をする相続人も現れうるし、期間延長という特別措置の恩恵を受ける必要のない相続人も多いであろう。
今回の問題は、震災被害者の遺族の個別の事情に照らしながら、裁判所の柔軟な対応により期間の延長を認めるといった形で解決すべき問題だと思う。したがって、そのような柔軟な対応を可能にする権限を裁判所に付与する法律こそが求められているのではないだろうか。
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