オーストラリアで勤務時間外の業務連絡を無視できる法律が制定
2024/03/06 労務法務, 外国法
はじめに
「勤務時間外に仕事の連絡を無視しても不利益な扱いを受けない」とする労働者の“連絡遮断権”を定めた法律がオーストラリア議会で制定され、8月にも施行される見通しとなりました。
時間外の上司からの連絡無視OK
オーストラリア議会を2月12日に通過した労働者の権利を定めた法律。同法では、「勤務時間外に上司から電話やメッセージで連絡を受けて、無視をしても、不利益を受けない」と定めています。制定の狙いは、サービス残業をなくし、私生活の自由を守ることだといいます。
パソコンやスマートフォンなどの通信手段の発達や、テレワークの幅広い浸透に起因し、勤務時間外であっても連絡が入り、早朝や深夜にも対応しなければならない労働者が増加しているといいます。こうした、仕事とプライベートの境目が不明瞭になっている事態を解消すべく、今回の法律制定が行われたということです。
オーストラリアのシンクタンクの調査では、業務過多や上司の圧力で残業をした経験のある人は7割以上にのぼるとの結果も出ており、特に育児や介護を行う労働者からは法律制定に前向きな声が聞こえています。
一方で、雇用者側からは懸念が持たれています。顧客対応の遅延や、勤務シフトの調整に時間がかかるなど、企業活動の停滞を危惧する声が上がっており、業務の機動性が失われるおそれがあるとして、反発の声があがっていると報道されています。
また、オーストラリア商工会議所も「利点より害悪の方が大きい」と批判しているほか、右派野党は政権交代した際には廃止するとの姿勢を見せています。
こうした「勤務時間外に連絡が来ても対応する必要がない」とする内容の法令等は、他の国でもみられています。
例えば、フランスで2017年に導入された規制では、「労働者が勤務時間外の仕事関連の電子メールを無視してもよい」とされています。
また、ポルトガルでは2021年に、雇用者に対して「勤務時間外に電話やメールで従業員に連絡することを禁じる」法律が導入されています。在宅勤務が広がる中で設けられた規制の一部だということです。
日本では“パワハラ”に
現状、日本では同様の法令等は設けられていませんが、連絡の回数や内容、時間帯などによってはパワーハラスメントに認定される恐れがあります。
実際過去には、生命保険会社の営業所の元部長が、部下に対して勤務時間帯を大幅に超えて連絡を繰り返し、会社からパワハラを理由に懲戒処分を受けたケースがあります。
この事例では、元部長が、育児のため時短勤務で午後4時に退勤した部下に対して、午後7時や8時、遅いときには午後11時以降にも電話などをして業務報告を求めるなどしていました。
元部長は懲戒処分を不服として、懲戒権の濫用(不法行為)を理由に会社を訴えました。これに対し、東京地方裁判所は、
・会社が必要かつ公平な調査を怠ったことを伺わせる事情が見当たらないこと
・時間外の過度な業務連絡のみを対象として戒告処分を選択したことが特に相当性を欠くものとはいえないこと
などを理由に、会社側の懲戒権の濫用を否定しています(東京地裁 令和2年6月10日判決)。
コメント
現状、日本では勤務時間外の連絡について、「ある程度は仕方ない」と捉える人が少なくない状況です。また時間外であっても、今対応しないと後日事態が悪化してしまい、余計に自分の仕事が増えてしまうと考えて対応することもあると思います。
仕事とプライベートの線引き、いわゆるライフワークバランスの取り方を考えることは従業員の健康、自社で働く上での幸福感・満足感、さらには会社の利益にもつながるほか、パワハラなどの防止にもなります。
勤務時間外の連絡をどのように規制するのか、自社の規模や業種なども踏まえ、一度、社内で整理・検討することが求められます。
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