運送会社が虚偽の書類提出で送検/労働基準法の「時間外労働規制」
2024/05/09 労務法務, 労働法全般, 物流
はじめに
違法な時間外労働と虚偽の帳簿書類を提出したとして、鳥取県米子市の運送会社と役員が鳥取地方検察庁米子支部に書類送検されていたことがわかりました。36協定の上限を超えていたとのことです。今回は労基法の時間外労働規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、米子市内の運送会社と代表取締役は、ドライバー1人に、2023年5月1日から31日までの間、36協定で定められた上限の月73時間を超える時間外労働を行わせた疑いが持たれております。また2023年8月1日から31日までの間、上限の月86時間を超える時間外労働をさせた疑いもあるとされます。さらに米子労働基準監督署の立ち入り検査の際、2023年4月1日から9月30日までの労働時間等について、実際の労働時間よりも少なく記載するなどの虚偽の記載をした帳簿書類を提出した疑いも持たれているとのことです。米子労基署は労働基準法違反があるとして会社と代表取締役を鳥取地検米子市部に書類送検しました。
労基法の労働時間規制
労働基準法では原則として労働者の労働時間は1日8時間、週40時間までとなっております(32条1項、2項)。それを超えて時間外労働を従業員にさせるには労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を締結し、労基署に届け出る必要があります(36条1項)。これがいわゆるサブロク協定です。この協定では、時間外労働や休日労働をさせることができる労働者の範囲、対象期間、労働時間を延長できる場合、対象期間における1日、1ヶ月、1年のそれぞれの期間についての時間外労働時間などを記載することとなります(同2項)。そして時間外や深夜、休日労働の際には割増賃金の支払い義務も発生します(37条)。具体的には法定時間外労働の場合25%以上、そこに深夜残業が加わる場合は50%以上となります。このように法定労働時間を超える場合は各種規制の適用を受けることとなります。
時間外労働の上限
現在上記時間外労働にも上限が設けられております。時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間となっております(36条4項)。この上限は臨時的な特別の事情がある場合は超えることができますが、それにも上限があります。この特別の事情とは、通常予見することのできない業務量の大幅な増加といった場合です。このような場合でも、年720時間、複数月平均80時間、月100時間未満が上限となります(同5項)。月80時間とは1日あたり4時間程度の時間外労働に相当し、また原則である月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとなっております。この臨時的な場合についても36協定で定める必要があり、36協定届の様式に特別条項を記載できる様式が用意されておりますので、それを利用すると1回の届出で完了することができます。なおこの時間外労働の上限規制は大企業で2019年4月から、中小企業で2020年4月から、そして運送業界では今年2024年4月から施行となっております。
上限規制に違反した場合
上記の労働時間規制に違反した場合、罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められております(119条1号)。労働基準監督官はこれらの調査のため、事業場、寄宿舎その他の付属建物に臨検し、帳簿や書類の提出を求めたり、使用者や労働者に対して尋問する権限が与えられております(101条1項)。労基法等では会社に労働関係の様々な帳簿の作成が義務付けられております。労働者の氏名や性別、賃金計算期間や労働日数、労働時間等を記載した賃金台帳、労働者の履歴や従事する業務を記載した労働者名簿、年次有給休暇管理簿、そして出勤簿となっております。これらの帳簿に虚偽の記載をした場合、または臨検に際して監督官に提出しなかったり、虚偽の記載をしたものを提出した場合は30万円以下の罰金となっております(120条1項、4項)。
コメント
本件で米子市内の運送会社は従業員に36協定で定めた上限を超えて働かせていた疑いが持たれております。また労基署の立ち入り調査に際して実際の労働時間よりも少なく記載した帳簿などを提出した疑いもあるとされます。いずれも違反に対しては労基法で罰則が規定されており、会社と代表取締役が書類送検されております。以上のように現在労基法では時間外労働に上限が規定されており、違反した場合は最大で6ヶ月以下の懲役が科されることとなります。またいわゆる法定4帳簿と呼ばれる書類についても虚偽記載には罰則があります。今年4月からは運送業界でも適用が開始されており、いわゆる2024年問題として注目されました。今一度社内での勤怠管理や書面の記載、備え置きについて問題はないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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