東和銀行員が自殺で労災認定、パワハラ規制について
2024/05/13 労務法務, 労働法全般, 金融・証券・保険
はじめに
東和銀行(群馬県前橋市)に勤務していた当時25歳の男性行員が上司からパワハラを受けて自殺したとして、労働基準監督署が労災認定していたことがわかりました。上司はすでに処分を受けたとのことです。今回はパワハラ防止法等の規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2014年に当時25歳であった男性行員が埼玉県の川越支店に異動になってからおよそ2ヶ月後に自殺したとされます。川越労基署の調べでは、自殺したのは上司から「バカ」「給料泥棒」などといった人格を否定する発言や威圧的態度で叱責されたことが原因とのことです。労基署は2023年8月に男性行員の自殺が上司からパワハラが原因であるとして労災認定しました。同行は今月9日に会見を開き、江原頭取が「大切な家族を亡くすという、取り返しのつかない大変な事案を起こしてしまい、深くお詫び申し上げます」と遺族に謝罪したうえで再発防止に取り組むと述べました。
パワハラとは
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)30条の2第1項によりますと、パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境ががいされること」と定義しております。従来ガイドライン等で示されていたパワハラの定義を条文化したものです。これにあるようにパワハラに該当するかについては、(1)職場での優越的関係を背景とし、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた、(3)労働者の職場環境が害されるような言動という3つの要素を検討することとなります。「優越的な関係」とは一般的には自分よりも目上の上司などをイメージされますが、業務に必要な知識や技術を持つ同僚や部下にも当てはまります。そして社会の一般常識から見て許容される範囲を超えて、業務上不要な言動を行い職場環境を悪化させた場合にパワハラと認定されることとなります。
パワハラと労災認定
令和2年5月から改正労働施策総合推進法が施行され、それに伴ってパワハラによる精神障害に関する労災認定の仕方が明確化されました。認定基準では、発病後おおむね6ヶ月間に起きた業務による出来事について、強い心理的負荷が認められる場合に認定要件の1つを満たすとしております。具体的には、まず人間関係の優越性の有無で分け、無い場合は対人関係の問題とし、認められる場合にはパワハラとして具体的出来事における心理的負荷の強度を審査していくこととなります。心理的負荷が強いものとしては、上司等からの治療を要するような暴行等の身体的攻撃、治療を要さない場合でも執拗な暴行を伴う身体的攻撃、人格や人間性を否定するような業務上明らかに必要性がない精神的攻撃、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前での大声での威圧的叱責、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃などが挙げられております。これらの要素をその時の状況や攻撃の程度、反復継続性、執拗性、会社の対応の有無なども加味して総合評価されます。
会社に求められるパワハラ防止措置
パワハラ防止法30条の2では、事業主に対しパワハラが発生しないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じることを求めております。具体的には、(1)パワハラについての方針を明確にし従業員に周知啓発する、(2)パワハラの相談に対応するための窓口等の体制を整える、(3)相談にを受けたら迅速かつ適切に対応することです。そして事業主は相談したこと、相談への対応に協力した際に事実を述べたことなどを理由に解雇その他の不利益取扱を禁止しております(同2項)。このパワハラ防止措置義務等に違反した場合でも、現状同法には罰則規定は置かれておりません。しかし厚生労働大臣は必要と認めた場合、助言、指導、勧告をすることができ(33条1項)、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される場合があります(同2項)。
コメント
本件で東和銀行の上司は威圧的な叱責や人格を否定する言動の他、休日に自宅に呼び出し勉強会を開いたり、他の行員の前で叱責するなどのパワハラを行っていたとされます。また亡くなった行員の男性は慣れない法人営業の担当になり、顧客から無理な注文を受け、また相談できる人間もおらず精神的に追い詰められていったとのことです。労災認定基準でも精神的負荷が強度とされる言動を多数受けており労災認定がなされました。以上のように令和2年施行のパワハラ防止法によってパワハラの定義が法定化され、事業者にはパワハラ防止のための体制構築義務が課されております。またそれに伴いパワハラによる労災認定基準もわかりやすくなっております。社内で人格を否定するような言動が行われていないか、また仮にそのような事案が発生した場合、相談できたり対応する体制ができているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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