テレビ宮崎前社長の敗訴判決にみる、役員退職慰労金減額の適法性
2024/08/01   商事法務, 総会対応, 労務法務, 会社法

はじめに


役員退職慰労金を不当に減額されたとして、株式会社テレビ宮崎の前社長(78)が会社と現在の社長に対し、減額分など2億円以上の支払いを求めた訴訟の最高裁判決が7月8日にありました。
最高裁判所は前社長の請求を棄却。テレビ宮崎側に全額の支払いを命じた一審、二審判決を取り消し、前社長側の逆転敗訴となりました。

本判決は、企業が定めた「役員退職慰労金の減額規定」に関し、最高裁判所が初めて判断を示したものといわれています。

 

取締役会には役員退職慰労金減額の広い裁量権


原告となった前社長は、在任中に出張時に社内規定を上回る宿泊費を計上していたこと等が発覚したことが原因で、2017年6月にテレビ宮崎の社長を退任したとされています。

その後、外部弁護士らで構成された調査委員会による調査が行われましたが、同調査の最終報告書で、CSR事業への過大支出などで会社に重大な損害を与えたとする結果が出されました。

テレビ宮崎では役員退職慰労金に関する内規で「在任中に特に重大な損害を与えた場合は減額できる」旨定められています。

調査結果を受け、テレビ宮崎の取締役会は、この内規を適用。前社長の退任慰労金1億8500万円を85%減額し、支給額を5700万円とする決議を行いました。

しかし、前社長は「減額は不当だった」として、会社と現在の社長に対し、不法行為(民法第709条等)および代表者の行為についての損害賠償責任(会社法350条等)に基づき、損害賠償等を求める訴訟を提起しました。

一審の宮崎地方裁判所(2021年11月)、二審の福岡高等裁判所(2022年7月)共に、会社に対し、前社長の請求にしたがい2億350万円を支払うよう命じました。

一審・二審は判決理由として、
(1)前社長が行ったCSR事業への支出は“特に重大な損害”を与えたとは評価できないこと
(2)それにも関わらず、取締役会が大幅減額の決議を行ったのは、内規の解釈適用を誤ったもので、裁量の逸脱・乱用にあたること

などを挙げていました。

しかし、最高裁判所は7月8日、一審・二審判決を取り消し、原告の逆転敗訴を確定させる判決を下しました。

理由として、「取締役会には内規を踏まえた役員退職慰労金の減額に広い裁量権がある」と指摘。そのうえで、会社が第三者委員会の報告なども踏まえ、相当程度具体的に審議を行い、減額を判断したことには合理的な根拠があり、裁量権の逸脱は認められないと結論づけました。

令和4年(受)第1780号 退職慰労金等請求事件 令和6年7月8日 第一小法廷判決

 

役員退職慰労金の支給について


取締役に対する退職慰労金を支給する場合、職務執行の対価としての報酬として定款で定めるか、株主総会の承認決議(普通決議)を経る方法があります(会社法361条1項)。
もっとも、定款に金額を明記している会社は少なく、後者の方法をとる企業が大多数とされています。

支給額については、株主総会で承認決議が得られれば会社法上の制限はありません。しかし、支給額が不当に高額な場合、法人税法上、「損金不算入」となるリスクがあるため注意しなければなりません(法人税法施行令70条2号)。

ちなみに、役員に対する退職慰労金の額は、

・業務に従事した期間
・退任に至った背景
・業界、企業規模が似通った法人における役員退任慰労金の支給状況

などに照らして決定されることになります。

具体的に適正額を算定する計算式はいくつかあります。例えば、東京地裁2020年3月24日判決などでは、次の計算式が合理的であると示されています。

[最終月額報酬額×勤続年数×同業類似法人の平均功績倍率]

 

コメント


創業者が役員の多くを占めている会社などにおいては、役員退職慰労金の支給頻度は、それほど高いとはいえないかもしれません。しかし、役員退職慰労金の支給にあたっては、総会における議案策定や支給基準(退職慰労金支給規程)の備え置き、適正な総会招集手続きなど、多くの準備を要します。

もし、株主総会の手続きに法令違反が認められた場合、後日、決議が取り消しとなるリスク(会社法第831条)がありますし、そうでなくても、支給有無・支給金額に疑義が生じた場合、紛争につながるおそれもあります。

役員が円満に退職できるよう、十分な準備を行うことが大切になります。

 

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