大阪地裁が労災認定請求を棄却、炎天下と労災について
2024/11/25 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, 建設
はじめに
炎天下で作業していた建築会社社員(当時44歳)が死亡したのは労災に当たるとして、遺族が国の労災不認定の取り消しを求めていた訴訟で21日、大阪地裁が請求を棄却していたことがわかりました。特筆すべき身体的負荷はなかったとのことです。今回は炎天下での過労死と労災について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、兵庫県伊丹市の建築会社で勤務していた男性は、2018年8月、戸建て住宅の建築現場で作業中、くも膜下出血を発症して約1ヶ月半後に死亡したとされます。これに対し伊丹労働基準監督署は19年6月、死亡直前の残業時間が過労死ラインに達していないとして労災認定しなかったとのことです。遺族が「炎天下の作業だった」と改めて訴えても国の審査会が労災と認めなかったとして、国の処分取り消しを求め大阪地裁に提訴しておりました。
労災と保険制度
労働災害(労災)とは、通勤や業務中に発生した負傷や病気をいいます。この労災が発生した場合に労働者に各種必要な保険給付を行い、労働者の生活を支え、社会復帰を促す制度が労災保険制度です。事業者は1人でも労働者を使用する場合は労災保険に加入することが義務付けられております。そしてこの労災保険は正社員に限らず、非正規社員やパートタイム、アルバイトなど勤務形態に関わらず対象としております。労災が発生した場合、会社は労基署に「労働者私傷病報告」を提出し、労災保険給付請求書も提出することとなります。この請求書は労働者本人が提出することも、会社を通じて提出することも可能です。請求書が提出されると労基署署長が審査を行い、給付決定または不支給決定を出すこととなります。
労災認定基準
それではどのような場合に労災認定がなされるのでしょうか。労災認定の要件は一般に、(1)業務遂行性と、(2)業務起因性とされております。業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて、事業者の支配下にある状態を言うとされます。これは事業場で作業をしているなど、事業者の管理化にある場合だけでなく、運送や配達中、また出張先での業務など事業者の管理化を離れていても支配下にあることは否定されないとされます。そして業務起因性とは負傷や疾病が業務に起因して生じたものであることをいいます。工場での作業中、機械に巻き込まれて負傷した場合や、引越し作業中に荷物を足に落として骨折した場合などが典型例といえます。これに対し過労死やうつ病などの精神疾患の場合は業務起因性の判断が簡単ではなく、本人の体質や性格、習慣や既往症の有無など様々な要素を加味して判断する必要があります。
炎天下作業の場合
近年温暖化が進み、夏季の屋外での気温は相当なものとなっております。このような状況下での作業は、適切な体温管理を行わないと熱中症になる危険性が高いといえます。業務中に熱中症となった場合も労災が認められることがあります。労基法施行規則35条、別表1の2には業務起因性が医学的見地から認められる状況と疾病が列挙されております。それによりますと、紫外線にさらされる業務での眼疾患や皮膚疾患、マイクロ波にさらされる業務での白内障等、放射線にさらされる業務による急性放射線性などと並んで、「暑熱な場所における業務による熱中症」が挙げられております。そして裁判例では、労働者が暑熱な場所における業務の従事中に熱中症を発して死亡した場合は特段の反証がない限り業務起因性が認められるとしております(東京地裁平成18年6月26日)。つまり炎天下での作業により熱中症を発症した場合は高い確率で労災が認められるということです。
コメント
本件で建築会社に勤務していた男性の遺族は炎天下の作業によりくも膜下出血を発症して亡くなったと主張しておりました。これに対し大阪地裁は、発症直前2ヶ月間の月平均の残業時間を70時間と認定した上で、暑熱環境での作業だったが、常に直射日光下ではなく、移動や休憩時間もあったとし、特別に考慮すべき負荷はなかったとして請求を棄却しました。過労死ライン(月平均80時間)に達していなかったことや、労基法施行規則別表に規定された熱中症ではなかったため慎重に判断されたものと考えられます。以上のように炎天下での作業は熱中症の場合は特段の事情がない限り労災が認められる可能性が高いと言えますが、本件のようにそれ以外の疾病を発症した場合は、様々な要因を複合的に考慮されることとなります。従業員が炎天下での業務を必要とする場合は、体温管理などをより強く周知して労働災害を予防していくことが重要と言えるでしょう。
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