新潟市のデイサービス運営法人、賃金150万円不払いで書類送検/労基法の賃金規制について
2025/01/15   労務法務, 労働法全般, 介護業界

はじめに

 新潟市のデイサービス運営法人が職員に計約150万円分の賃金を支払っていなかった疑いがあるとして、労働基準監督署が監事の男性を書類送検していたことがわかりました。今回は労基署の賃金規制について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、書類送検されたのは放課後等デイサービス「おかげさま内野」を営んでいた新潟市西区の特定非営利活動法人「介護者支援会議」の監事の男性(73)とされます。同法人は職員9人に対し、最大で2023年5月~7月の3ヶ月分の賃金(計約150万円)をそれぞれの期日までに支払っていなかった疑いがもたれているとのことです。書類送検された監事の男性は法人の資金を管理しており、支払い義務者であると認定されたとされます。なお同法人は23年11月30日までに事業活動を停止しているのことです。

 

労基法の賃金規制

 労働基準法24条1項によりますと、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされ、また2項で「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」とされております。ここで「賃金」とは、「賃金、給与、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とされます(11条)。この規定に違反し、賃金を支払わなかった場合、罰則として30万円以下の罰金が規定されております(120条1号)。そして賃金については労基法の他に最低賃金法の規制も受けます。最低賃金は一定の地域ごとに地域別最低賃金が定められ、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に対し、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとされております(最低賃金法4条1項)。違反した場合には50万円以下の罰金が規定されており(40条)、また違反事実について労働者が労基署等に申告をしたことを理由に解雇その他の不利益取扱をした場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(39条)。

 

賃金支払5原則

 上記のように労基法24条では使用者に対し賃金支払いについての原則を規定しております。この原則は一般に「賃金支払5原則」ともよばれており、複数の原則が盛り込まれております。具体的には(1)通過払いの原則、(2)直接払いの原則、(3)全額払いの原則、(4)毎月1回以上払いの原則、(5)一定期日払いの原則となっております。賃金は小切手や手形などではなく、現金(本人の同意があれば振込も可)で支払うことが求められます。そして直接労働者本人に支払うことが必要です。これは第三者に搾取されることを防止しております。また全額支払われる必要があり、罰金や労働者に対する債権を控除したり相殺するといったことは禁止されております。賃金の支払いは月に1回以上、定まった期日に支払う必要があります。月1回以上であれば、週払いや日払いも可能ですが、月によって期日が変わったり、第3水曜といった定め方はできないとされております。

 

賃金と一般先取特権

 上記のように会社は従業員に賃金を支払う義務を負っておりますが、支払われない場合に従業員側はどのような措置を採ることができるのでしょうか。民法306条では賃金は「雇用関係」として一般先取特権の対象となっております。債権の担保として抵当権や質権は一般に約定担保物権と呼ばれますが、先取特権は当事者間での約定を必要とせず法律上当然に発生する担保権です。通常、債権を強制的に回収するには裁判所の判決や和解調書といったいわゆる債務名義が必要ですが、担保権が存在する場合は登記事項証明書などその存在を証明することができれば訴訟等を経ることなく実行することが可能です。賃金債権などの一般先取特権もその存在を証明する文書または電磁的記録を提出することによって実行が可能となっております(民事執行法181条1項2号ハ)。ただし訴訟を行った場合でも明らかに認められるとみられる程度には証拠等が必要と言われております。

 

コメント

 本件で介護者支援会議では9人の職員に対し、最大で3ヶ月分の賃金不払いの疑いが持たれております。これが事実であった場合は労基法違反となることとなります。以上のように労基法では使用者に、名目の如何を問わず労働の対価としての賃金支払い義務を課しております。仮に従業員側に無断欠勤や備品を破損させた、顧客に損害を生じさせたなどの問題があり、それにより会社に損害が発生したとしても、損害分を賃金から相殺したり天引きすることはできません。また資金繰りが苦しい場合でも同様です。不払いがあった場合は従業員側から訴訟や民事調停などの申立てがなされる場合もありますが、先取特権の実行として突然会社財産が差し押さえられることも有りえると言えます。労基法や最低賃金法などの規定を今一度確認して社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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