講談社側への賠償命令確定
2013/03/15 訴訟対応, 民事訴訟法, その他
事案の概要
「週刊現代」と月刊誌「現代」の2誌、計13の記事で名誉を傷つけられたとして、大相撲の貴乃花親方夫妻が発行元の講談社などに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は13日の決定で同社側の上告を退けた。 名誉毀損を認定し、計847万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じた二審判決が確定した。
問題の記事は、2004年5月~05年7月に週刊現代と月刊誌「現代」に掲載された記事で貴乃花親方が八百長をしたかのように報じたものである。
同記事では、親方夫妻が、父の故・二子山親方に無断で土地建物の権利証を持ち出し、財産を奪おうとしたなどとも報じられた。
二審判決は「関係者に事実を確認するなどの裏付け取材が全く行われていない」とし、同社側が真実と信じる相当な理由もなかったと判断していた。
参照条文
【憲法】
第21条
1項:「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
【刑法】
第230条
1項:「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」
(公共の利害に関する場合の特例)
第230条ノ2
1項:「前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」 ※
※補足
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)
【民法】
第709条:「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
第710条:「他人の・・・名誉を侵害した場合、・・・前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」
第723条:「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するに適当な処分を命ずることができる」
関連判例
【夕刊和歌山時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)】
「刑法230の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
【月刊ペン事件(最高裁第一小法廷判決 昭和56年4月16日)】
「刑法230条ノ2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。」
民事への刑法第230条の2の類推適用
人格権としての個人の名誉の保護と表現の自由(憲法21条)の調和を図った刑法230条ノ2の規定の趣旨は民事(名誉毀損)にもあてはまるので、刑法230条ノ2は民事にも類推適用される。
そして、民事の名誉毀損の裁判において、被告側は
①その行為が公共の利害に関する事実に係り
②もっぱら公益を図る目的に出たこと
③適時された事実が真実であることが証明されたこと ※
を主張立証する必要がある。
※補足
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌山時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)
コメント
今回の事件で裁判所は、講談社など被告側に真実と信じる相当な理由もなかったと判断した。
つまり、今回の記事内容が
①「真実であることの証明があったとき」(刑法230条ノ2第1項、民法類推適用)
②「行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるとき 」(夕刊和歌山時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日))
のいずれにもあたらなかったことを意味する。
今後、同社には法的側面から記事内容を事前にチェックできる体制を構築する努力が求められてくることになるだろう。
具体的には、同社の法務部員が編集部と連携を組み、記事内容を事前に常時チェックする体制を構築することが手段の一つとして考えられる。
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