中小企業が直面する人材不足の危機 人材不足・賃上げによる倒産増
2014/08/25 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
人口減少が進む中、東日本大震災からの復興需要やアベノミクスによる景気回復で求人が急増し、建設業や外食産業などで必要な人員を確保できない事態が相次いでいる。少子化で働き手が減る中、景気が上向いて大企業が非正規社員などを増やしており、中小企業にしわ寄せが来ている状況だ。人材を確保するため、中小企業は賃上げを図っている。経済産業省が今月15日に公表した調査では、今春に従業員の賃金を引き上げた中小・零細企業は65%と、前年度の57%から拡大した。中小企業が賃上げした理由としては、従業員の定着・確保が主となっている。公共工事の拡大によって建設業やサービス業などで労働力が不足し、大企業との競合も勘案して賃上げに踏み切る例が多く見受けられる。もっとも、募集をかけても採用したい人材がいないなど、優秀な人材は企業間の取り合いが激しくなっており、さらなる賃上げの圧力に繋がっている。
このような人材不足及びこれに伴う人件費の高騰は、新たに中小企業の経営を行き詰まらせる重荷となっている。東京商工リサーチの発表によれば、今まで「人手不足」関連倒産としては、主に代表者死亡や入院などによる「後継者難」型、経営幹部や社員の退職に起因した「従業員退職」型が中心だった。しかし、最近の「人手不足」の深刻化に伴い「求人難」型が出始めており、今後さらに増えることが予想されている。
また、最近の倒産では人件費高騰による負担増から資金繰りが悪化したケースも出ている。中小企業経営においては、規模が小さいながらも、ニッチ市場におけるオンリーワンという言葉に象徴されるように製品・サービスの競争力が強調されてきた。中小企業の強みである製品・サービスの競争力を高めるためには、より良い人材の確保育成が重要である。そして賃上げは人材確保の一方法として有効ではあることは否定できない。しかし、賃上げが経営をひっ迫する中小企業の状況下においては、企業としては賃上げ以外の方法で人材確保を図ることも必要となってくる。
コメント
中小企業は人材不足になると企業は賃上げをして人手を確保しようとするため、デフレ脱却につながる効果が期待できるが、中長期的には企業は人手不足によって商品やサービスを供給する力が落ちるため、日本経済の成長を押し下げるとの懸念もある。しかし、中小企業が、「大手求人誌への掲載」「就職あっせん業者への登録」といった求人対策を打ったとしても、コストが膨れ上がってしまう割に、なかなか効果が出ないことが多い。中小企業としては、人材確保を賃上げに頼るばかりではなく、規模が小さいことが有利となるような育成方法を実施するなど中小企業にしかできない対応策を採ることも有効であろう。代表者や役員が新人研修の段階から積極的に関わることは、大企業が真似できない育成方法に繋がる。また、中小企業は、人材が定着する職場環境の整備が遅れがちであるので、そのような環境整備も必要不可欠である。
一方で、政府は、中高年の長期失業者や仕事を持たない若者、フリーターに向けた職業訓練など幅広い層の就労促進策の推進が中小企業の人材確保のためには急務である。
さらに、外国人材も積極的に活用するという方法も考えられる。現在、官民一体となり外国人材の確保・定着事業がなされているが、日本語習得支援やキャリアパスに関する定期的な面談の実施など、定着率を向上させる施策もこれからますます必要となるだろう。
関連サイト
東京商工リサーチ 「中小企業 賃上げアンケート 」調査 6割が賃上げを実施
東京商工リサーチ 「人手不足」関連倒産 1-7月累計172件、「求人難」型は15件
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