社員がデング熱にかかったら?
2014/09/22 労務法務, 労働法全般, その他
デング熱とは
厚生労働省は19日、国内のデング熱感染者が191人であると発表している。18日の発表よりも8人増加しており、感染したとされる場所は多い順に、代々木公園周辺(121名)新宿中央公園(9名)となっている。これまでは代々木、新宿と東京西部での感染源が多かったが、上野公園のような東京東部にまで拡大したことが大きい。
そもそもデング熱とは、デングウイルスが感染しておこる急性の熱性感染症である。重篤なインフルエンザ様疾患で、乳児、幼児、成人が罹るが、滅多に死亡することはない。具体的には40℃を伴い、激しい頭痛、眼の奥の痛み、筋痛と関節痛、悪心、嘔吐、リンパ節の腫脹、発疹のうち2つ以上の症状がある場合にはデング熱を疑うべきとされる。感染する原因は蚊に刺されたことによるもので、刺された後4~10日の潜伏期を経て出現し、通常2~7日間持続する。現在WHOは、世界中で毎年5000万人から1億人がデング熱に感染していると推計している。感染した場合はデングウイルスに対する特有の薬はなく、対症療法となる。デング熱がここまで問題化している理由は、その感染源となるネッタイシマカが従来は熱帯・亜熱帯地域でしか生息しないと考えられていたからである。
蚊の移動距離は一般に2kmとされているので、蚊にさされた人を通してデング熱は東京に広がっているものと予測できる。
コメント
では社員がデング熱にかかった場合は、企業はどうすべきか。まず企業は労働者に安全配慮義務(労働契約法5条)を負っているので、他の従業員への感染を防止するためにも当該従業員を欠席させるべきであろう。ここで病欠の扱いは有給休暇にあてることになると思うが、会社によっては就業規則にて有給休暇に事前申請を求めているかもしれない。たしかに就業規則が合理的で、かつ周知している限り会社と労働者は就業規則が契約の内容になる(同法7条)。もっとも、これは会社の効率的運営のために認められた法律であるから、会社側から後日病欠を有給休暇にあてることは構わないであろう。
労災の適用があるか検討する。労災は「業務上」(労働者災害補償保険法7条1項1号」または「通勤」(同法1項2号)による障害であることを要する。
「業務上」とは業務遂行性(そのような行為が業務と言えるか)と業務起因性(当該業務に内在する危険と言えるか)を満たすことである。具体的には、業務として蚊に刺されやすい場所(藪等)にいる必要(業務遂行性)があり、さらにその場所で刺された(業務起因性)といった事実がない限り認められないであろう。
また、「通勤」による障害と言えるためには、通勤に内在するものでなければならない。これも通勤途中に藪がある等の確実な事実がないと適用は難しいであろう。
したがって、労災の適用は難しいかもしれない。
関連法令
<労働契約法>
第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
<労働者災害補償保険法>
第1条 労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
第7条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
*第2弾は、【社員がエボラ熱にかかったら?】にしました。
関連サイト
デング熱の国内感染事例の発生状況について
厚生労働省検疫所 FORTH海外で健康に過ごすために「感染症についての情報 」
厚生労働省検疫所FORTH「デング熱と重症型のデング熱について(ファクトシート)」
厚生労働省「デング熱に関するQ&A」
東京都福祉保険局「デング熱について」
国立感染症研究所
「労働法」(水町雄一郎、有斐閣)
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