懲戒免職者の退職金の当然不支給は違法
2015/09/29 労務法務, 労働法全般, その他
判決の概要
元職員の男性は、平成26年7月、高知県内で酒を飲んだ後に乗用車を運転して帰宅する途中、道路脇の農業用ハウスを壊したとして、道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪で罰金50万円の略式命令を受けた。高知県は男性を懲戒免職とし、退職金につき全額を不支給とした。これに対し、男性は異議を申し立てたが、棄却されたため、今年1月に提訴した。
高知地裁の判決が9月25日に出され、退職金の全額不支給は「裁量権の逸脱といわざるを得ない」として、処分の違法性を認め、県に取消しを命じた。裁判長は、判決理由で「懲戒免職をしてもなお、これまでの功績を無視し、退職金を受ける権利の全部を否定するに値するかとの観点で十分検討されたか判然としない」と指摘し、「賃金の後払い的、生活保障的な退職金の性格を何ら考慮しなかったことは明らかだ」と判断した。
企業の場合の取扱い
今回の裁判は県による処分を争ったものであるが、企業による退職金の支給についても同様の考え方がなされている。企業における不支給が争われた事件として、小田急電鉄の従業員の男性が他社の電車内での痴漢行為により逮捕され、懲戒解雇となったが、退職金の全額不支給は違法であるとして企業を訴えた小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)がある。この判決において、裁判所は「退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するもの」であるとし、「退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。」として、退職金の全額不支給は認められないとした。多くの企業では、就業規則において懲戒解雇をした者には退職金を支給しない旨を規程していると思われるが、就業規則に不支給の旨を規程しても、退職金を当然に不支給とすることはできない。不信行為と被解雇者の従前の勤続の功を比較考慮して決定することになる。
コメント
懲戒解雇時の退職金の不支給については、度々争われているため、企業としても注意を払っていることと思う。もっとも、どのような場合に「労働者の永年の勤労の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」となるかは明確でなく、判断が難しい。営業部長やマネージャー等の役職についた者が会社の情報を漏洩する等の不信行為をした場合には、背信性が高いとして不支給が認められる場合がある。これに対し、従業員の物損事故や痴漢行為、私的な花見会等の不信行為については、背信性が高いとは言えず、割合による退職金の支払を命じられることが多い。このように、不支給が認められるかは事案により異なるため、退職金不支給に関する判決の事案から、自社の事案があてはまるのかを具体的に判断していく必要がある。
参考判例
<企業勝訴>
・キング商事事件(大阪地裁平成11年5月26日判決)
・日本リーバ 事件(東京地裁平成14年12月20日判決)
・ソフトウエア興行(蒲田ソフトウエア)事件(東京地裁平成23年5月12日判決)
<企業敗訴>
・小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)
・トヨタ工業事件(東京地裁平成5年6月28日判決)
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