大阪地裁が「私的交際禁止」条項無効判決、労働契約内容について
2020/10/23 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
私的な男女交際を禁止した雇用契約に違反したとして、大阪府内のキャバクラ店が元従業員の女性に賠償を求めた訴訟で19日、大阪地裁は請求を棄却していたことがわかりました。自由への介入が著しく無効であるとのことです。今回は労働契約内容に関する規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側のキャバクラ店は2017年、元従業員の女性と雇用契約を締結するに際し、私的交際をした場合違約金200万円を支払うとの同意書に署名させたとされます。その後2018年にその女性と系列店に務める男性との交際が発覚したとのことです。店側は2人で出歩くのを客に見られ売上が減少したとして、女性に対し140万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。
労働基準法による規制
使用者と労働者との間で締結される労働契約も契約である以上その内容は当事者が自由に決定できるのが原則です。しかし立場の弱い労働者を保護するため一定の制約が存在します。労働基準法では「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」としております(13条)。たとえば1日の労働時間を8時間を超えて設定している場合や、法定の割増賃金以下の設定をしている場合などが挙げられます。このような場合は労基法の規定に違反する部分は無効となり、その部分は労基法の基準が適用されることとなります。また労基法では労働契約の不履行について違約金や損害賠償額の予定を定めてはならないとされております(16条)。労働者に対して有する債権と賃金とを相殺するといったものも禁止されております(17条)。
労働契約法による規制
労働契約法では労働契約の締結および変更に際して、使用者と労働者が対等の立場における合意、就業の実態に応じた均衡の考慮、仕事と生活の調和、信義則、権利濫用の禁止などの原則が規定されております(3条1項~5項)。そして労働契約に定める労働条件は就業規則で定める基準に達しない部分は無効とされ、その部分は就業規則の基準と同じものとなります(12条)。この規定は労基法にも準用されております(労基法93条)。また労働契約の変更は使用者と労働者の合意によって行い、合意無く一方的に就業規則を変更し、労働者の不利益に契約内容を変更することはできません(8条、9条)。ただし例外的にその変更が労働者の不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労組等との交渉状況などを考慮して合理的であれば、周知させることにより変更は可能とされます(10条)。
公序良俗違反による無効
上記労働法令による規制以外でも公序良俗違反により契約条項が無効となることが有りえます(民法90条)。実際に問題となった事例では、クラブのホステスとして勤務していた者が客の未払い売掛金を連帯保証するという内容のものがあります。裁判所は当該従業員の実質的関与の機会が無いうちに店と顧客の都合で過酷な負担を強いるものか、店側の優越的立場を利用していないか、保証債務の負担が退職の自由を著しく制約していないか、ノルマにより売掛を断ることが事実上困難ではないかなどを判断基準として公序良俗違反かを判断しております(東京地裁平成7年11月7日)。
コメント
本件でキャバクラ店は女性従業員との雇用契約で私的な交際を禁止し、違反した場合には違約金200万円を支払うとする同意書に署名させていたとされます。大阪地裁は交際は本人の意思が尊重されるものであり、真摯な交際も禁じていることから自由への介入が著しく無効としました。またあらかじめ違約金の規定を盛り込んだ契約も労基法違反であると指摘しました。以上のように労働者の権利を著しく制約するものや、一方的に不利益を課す内容のものは無効と判断されることがあります。交際禁止条項は芸能人やアイドルと事務所の契約でもしばしば問題となりますが、恋愛も個人の幸福追求権という憲法上の権利であることから賠償義務を否定している裁判例も存在します。今一度従業員との雇用契約の内容をチェックし直しておくことが重要と言えるでしょう。
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