派遣会社の責任者を書類送検、労働条件明示義務について
2021/04/14 労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法, その他
はじめに
那覇労働基準監督署は先月16日、労働契約を更新した際に派遣労働者に対して賃金や契約期間などの労働条件を書面で明示しなかったとして派遣会社と同社責任者を那覇地検に書類送検していたことがわかりました。今回は労働基準法が規定する労働条件明示義務について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、沖縄那覇労働基準監督署は派遣会社と同社沖縄オフィスの責任者を労働基準法15条の労働条件明示義務違反で那覇地検に書類送検したとされます。詳細は不明ですが同社は派遣労働者との初回の契約時には労働条件の明示をしていたが、2度目以降は一切行っていなかったとされ、労働者からの告訴から発覚したとのことです。同派遣労働者は既に雇い止めされているとされます。
労働基準法15条による規制
労働基準法15条によりますと、使用者は労働契約を締結するに際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとしております。そして明示された労働条件が事実と相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができるとされ、その場合、労働者が就業のために住居を変更しており、契約解除から14日以内に帰郷する場合には使用者は必要な旅費等を負担しなければならないとされております。この労働条件の明示義務に違反した場合には罰則として30万円以下の罰金が規定されております(120条1号)。
書面により明示すべき事項
労働基準法施行規則5条1項によりますと、書面によって明示すべき事項として以下の内容が挙げられております。なお就業規則に労働条件が具体的に規定されている場合は、契約締結時に労働者一人ひとりに対して、当該労働者に適用される部分を明らかにして就業規則を交付すればよいとされます。(1)労働契約期間、(2)就業場所・従事する業務内容、(3)始業・就業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項、(4)賃金の決定、計算・支払い方法、締切・支払い時期に関する事項、(5)退職に関する事項となっております。
口頭の明示でもよい事項
上記の事項は書面で明示することが求められますが、以下の事項については口頭による明示でもよいとされております。(1)昇給に関する事項、(2)退職手当の定めが適用される労働者の範囲および退職手当に関する事項、(3)臨時に支払われる賃金・賞与に関する事項、(4)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項、(5)安全衛生に関する事項、(6)職業訓練に関する事項、(7)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項、(8)表彰、制裁に関する事項、(9)休職に関する事項となっております。
コメント
那覇労基署によりますと、今回書類送検された派遣会社は初回の契約時には労働条件の明示を行っていたものの、2度目以降の更新の際には一切なかったとされております。告訴を行った元派遣労働者は既に雇い止めになっていることから同社と労働条件を巡ってトラブルがあったのではないかと考えられます。以上のように労働契約締結時や更新の際には労働条件を書面で明示することが求められております。労働条件の明示に関しては、会社と労働者との間で、最初の説明と賃金や手当、勤務時間などに相違がある、ハローワークやホームページで表示されていたい賃金や手当と相違があるといった紛争から問題化することが多いと言えます。募集時や契約締結時には労働者にわかりやすく丁寧な労働条件の説明と書面交付を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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