TDLキャストによるパワハラ訴訟、オリエンタルランドに賠償命令
2022/04/15 労務法務, 労働法全般
はじめに
東京ディズニーランド(千葉県浦安市)のショーに出演していたパートの女性(41)が上司等からのパワーハラスメントが要因で体調を崩したとして、運営会社のオリエンタルランド(同市)を相手取り、慰謝料など計約330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、千葉地裁は3月29日、同社に88万円の賠償を命じました。判決では、上司らの言動自体はパワーハラスメントと認定されませんでしたが、会社として、原告が職場で孤立しないよう調整する安全配慮義務違反があったと認定されました。オリエンタルランドは、判決を不服として4月12日に東京高裁に控訴しています。今回はパワーハラスメントにおける安全配慮義務について見ていきます。
事件の概要
報道によりますと、女性は2013年1月、キャラクターの着ぐるみを着用して接客していた際、男性客から右手薬指を曲げられる暴行を受け、怪我を負いました。女性は同社に対して労災申請の協力を求めたところ、上司から「君は心が弱い」などと指摘されたことでうつ症状に陥り、職場で孤立していったと言います。その後も女性は約5年間にわたってパワーハラスメントを受けたと主張していました。判決では女性がパワーハラスメントと主張した発言について、事実として一部認定したものの「社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない」としました。一方で、「会社は女性が体調を崩していることを把握した時点で職場の同僚に事情を説明するなど女性が孤立しないよう職場環境を整えるべきであり、安全配慮義務を怠った」として会社に対し慰謝料など合わせて88万円を支払うよう命じました。原告の女性は「『おかしい』と声を挙げたことが認めてもらえてうれしいです。憧れを持って働く従業員にとっても夢と魔法の国だと誇れる職場になってほしいです」と話しています。判決を受けた同社広報部は「主張が一部認められなかったことは誠に遺憾であり、判決内容を精査して対応を検討したい」とコメントしています。
パワーハラスメントが疑われる事案における企業の法的責任
パワーハラスメントが疑われる事案が発生した場合、企業は主に以下の法的責任を問われるおそれがあります。
■不法行為責任
パワーハラスメントが疑われる事案においては、従業員等が行った行為・指導などが「業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法な行為」と認定され、当該行為と被害者に生じた損害との因果関係が認められる等、各種要件が満たされた場合、当該従業員に不法行為責任(民法709条)が認められます。そして、従業員の不法行為が業務に関連して行われたものである場合、会社は原則として、被害者に対し、その損害を賠償しなければなりません(民法第715条1項及び2項)。いわゆる使用者責任と呼ばれるものです。今回の訴訟においても、原告女性の上司らの言動が不法行為と認められるか、ひいては、会社に使用者責任が認められるかが一つの争点になりました。
■債務不履行責任
従業員等が行った行為・指導が不法行為と認められず、会社に使用者責任が認められない場合でも、会社と被害者従業員との間で締結した労働契約に基づき、契約不履行による責任を問われる可能性があります。今回の判決でも取り上げられた安全配慮義務違反が典型例です。
パワーハラスメントにおける安全配慮義務とは
安全配慮義務は労働契約法の第5条に定められた「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という義務のことです。労働契約法の第5条では健康や精神については明文化されていません。しかし過労死やパワーハラスメントに伴う損害賠償請求に対しても、安全配慮義務違反を認定した判例があります。また厚生労働省も条文の文言にある「生命、身体等の安全」には、精神の安全や健康も含まれると通達していることから、企業はこれらについても当然配慮するべきだと考えられています。安全配慮義務では企業が行うべき施策について、これまで具体的に法律で決められていませんでした。したがって、企業ごとに従業員が安全に働けるように対策を講じる必要がありました。しかし、労働施策総合推進法(通称:パワハラ法)の制定されたことにより、今後企業は以下の措置を取ることが義務となります。
① 労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(同法第30条の2 第1項)
② 労働者が相談を行ったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。(同法第30条の2 第2項)
③ 労働者がパワハラを行わない、パワハラに対して関心や理解を深めるために研修を実施などを行わなければならない(同法第30条の3 第2項)
④ 事業主(会社の役員等)自らも、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(同法第30条の3 第3項)
安全配慮義務や労働施策総合推進法に具体的な罰則規定はありませんが、今回の事件のように、義務を怠たることで賠償責任を負う可能性もあります。
コメント
今回の事件のように、パワーハラスメントと認定されずとも安全配慮義務を怠ったとして慰謝料の支払いを命じられるケースもあります。従業員が心身の健康を保ちながら快適に働けるよう、会社としては、
・社内にハラスメントが疑われる事象が発生していないか
・業務上の指導でストレスを抱えている従業員はいないか
・孤立している従業員はいないか
等に常に目を配り、該当する事象が発見された際には、即座に対応する体制を整備する必要がありそうです。
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