大阪地裁でタイ航空元社員の解雇無効
2022/08/05 労務法務, 労働法全般
はじめに
タイ国際航空を解雇された大阪市の元社員の男性が申し立てた労働審判で先月27日、大阪地裁が解雇を無効と判断していたことがわかりました。タイ航空側の異議により民事訴訟に移行するとのことです。今回は普通解雇と整理解雇の要件について見直していきます。
事案の概要
読売新聞の報道によりますと、新型コロナウイルスの影響により業績が悪化し、2020年5月に経営破綻したタイ国際航空は経営再建を図る中、21年8月から国内の従業員42人の希望退職を募り同年10月までに41人が退職したとされます。同社大阪支店の営業部で30年間勤務していた元従業員の男性は同年11月に上司から持病を理由に退職を打診され、断ると今年1月に勤務成績不良を理由に解雇されたとのことです。男性は事実に基づかない抽象的な理由を作り上げており、解雇権の濫用であるとして3月に労働審判を申し立てておりました。会社側は勤務態度に問題があったとし、合理的な理由があったと反論していたとされます。
解雇の種類
解雇は大きく分けて、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。普通解雇とは懲戒解雇といった特別な解雇に対比して使われる概念で、能力不足など、いわゆる労働者側の債務不履行を理由とする解雇とされます。整理解雇は経営不振に陥った会社が経営再建を図るための人員削減を目的として行う解雇を言います。一般にリストラと呼ばれる解雇はこれにあたります。これは普通解雇、懲戒解雇と違い労働者側に原因がなく、もっぱら会社側の理由による解雇と言えます。そして懲戒解雇は会社が労働者に対して行う懲戒処分の一環としての解雇です。能力不足などを理由とする普通解雇と違い、窃盗や横領、強制わいせつ行為、重大な経歴詐称など、より悪質性の高い非違行為を理由とした解雇を言います。
普通解雇の要件
普通解雇の要件としては、(1)就業規則による定め、(2)解雇予告、(3)解雇が法令に違反しないこと、(4)解雇権濫用に当たらないこととされます。解雇事由は就業規則に記載しなければならない必要的記載事項であることから、能力不足、経歴詐称、度重なる遅刻・欠勤、業務命令違反などの事由を記載しておくこととなります。一般には「その他前各号に準ずる事由があった場合」といった包括条項が最後に記載されます。労働基準法20条では、解雇にあたっては30日前までに解雇予告を行うか、30日分の賃金を手当として支払う必要があります。また労組に所属するなど労働行為を行ったこと、女性の婚姻や妊娠・出産、国籍や信条、性別等を理由とする解雇は各種法令で違法とされます(労働組合法7条、男女雇用機会均等法6条、9条等)。そして最後に解雇が「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」である必要があります(労働契約法16条)。
整理解雇の要件
整理解雇が適法となるためには4つの要件を満たす必要があると言われております。(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力、(3)解雇者選定の合理性、(4)解雇手続きの妥当性のいわゆる整理解雇4要件です。整理解雇は上でも述べたように従業員の問題ではなく、経営再建という会社側の事情を理由とする解雇であることから要件は厳格と言えます。まずその理由として経営不振を打開して経営再建を図るというものでなくてはならず、生産性向上は理由とは認められません。そしてそれまでに希望退職を募ったり、役員報酬のカットや配転など解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしている必要があります。そしてやむを得ず解雇するにあたり、その人選は公平で合理的な基準による必要があります。そして最後に対象者や労組と十分に協議するなど手続きも尽くされてなければなりません。
コメント
本件で原告の男性側の主張によりますと、自主退職の打診を断ると、勤務成績不良を理由とする解雇がなされたとされます。大阪地裁は解雇を無効と判断し、未払い賃金分の支払いを命じました。タイ国際航空は経営再建中であり、希望退職などを募っていたことから整理解雇とも考えられますが、そのためには公平な基準や十分な対話と説明などが必要となります。また普通解雇でも客観的に合理的な理由などが必要なります。詳細は不明ですがこれらのいずれの要件も満たさないと判断されたものと考えられます。以上のように従業員の解雇は、いずれの種類による場合でも厳格な要件を満たす必要があります。整理解雇に応じなかったとして、安易に普通解雇や懲戒解雇とすることは違法と判断される危険性が高いと言えます。人員整理が必要な場合はこれらの要件を踏まえて、丁寧に手続きと説明を進めていくことが重要と言えるでしょう。
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